Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

鈴木おさむは肺の数値上昇にドキッ 腫瘍マーカーの読み方

鈴木おさむさん
鈴木おさむさん(C)日刊ゲンダイ

 会社員の方は、健康診断の結果に一喜一憂しているかもしれません。放送作家の鈴木おさむさん(47・写真)は、人間ドックの結果について今月9日のブログにこんなことをつづっています。

「肺の腫瘍マーカーにD判定出ていまして。ようは精密検査ですね。SCCってやつです」

 腫瘍マーカーは、がんの増殖に伴って、血液中に分泌されることがある特徴的な物質、つまりマーカーです。血液検査でそれぞれのがんに対応するマーカーを測定すると、がんの診断や治療効果の判定に役立つことが期待されています。

 人間ドックのオプションに、腫瘍マーカー検査を設けている医療機関は少なくありません。40種類以上ある腫瘍マーカーのうち代表的なものは、AFP=肝臓がん、CA125=卵巣がん、CA19―9=消化器がん、CA15―3=乳がん、CEA=消化器がんや乳がん、PSA=前立腺がんなど。

 鈴木さんが心配されているSCCは英語の扁平上皮がんの略で、子宮頚部がんや肺がん、頭頚部がん、食道がんなどとの関連が分かっています。

■早期発見はほぼ無理

 結論からいうと、ほとんどの腫瘍マーカーは、早期がんで上昇しないので、早期発見に結びつくことはまずありません。採血だけで検査法はとても簡便ですが、それだけでは確定診断できるものではないのです。

 先日、東大病院に来られた40代の女性も、SCCの高値を気にされていました。数年前の人間ドックから数値が上昇し始め、今年のドックで基準値を超えたことで、子宮頚がんの可能性を指摘されたようで、ノイローゼ気味でした。

 しかし、当院で採血すると、まったく問題のない数値。腫瘍マーカーはがんの早期発見にはならないことを説明すると、「オプションは受けなければよかった」とホッとして帰られました。SCCは正常な扁平上皮にも存在し、アトピー性皮膚炎や喘息、肺炎、結核などでも上昇。長年の喫煙の影響でも数値が上がります。しかも、日内変動が大きく、がんでなくても、数値が高くなることは少なくないのです。

 卵巣がんと関係があるCA125について、米国の研究では、検査を受けた人と受けていない人を比較すると、早期発見率も死亡率も、有意差が認められませんでした。早期発見については、このような状況がほとんどです。それなのに、早期発見がPRされると、がんではないのに異常とされる「偽陽性」で不安に駆られる人が続出します。そこが問題です。

 では、腫瘍マーカーはどうやって見極めるか。それは治療効果の判定や再発のチェックです。大腸がんで手術した方が定期的にCEAを測定すると、再発を早期発見できる、生存率が向上したという報告があり、再発チェックでのCEA検査は世界的に推奨されています。また、卵巣がんに対するCA125や前立腺がんのPSAは、治療効果の判定に役立つことが明らかです。

 腫瘍マーカーのチェックは、がんになってからということです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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