進化する糖尿病治療法

なぜ年1回でほとんど春? 健康診断結果に潜む問題点

写真はイメージ
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 健康診断や人間ドックのシーズンです。ある40代半ばの患者さんは、「健診の1カ月くらい前から準備をする」と話します。その“準備”とは、「炭水化物や揚げ物は一切食べない」「家で食べるのは鶏肉のささみか豆腐。外食では、もりそば」というストイックな内容です。

 彼は、普段は夜遅くまで飲むことが多い。

 食事は、朝は自宅でパンとコーヒーと果物。昼は仕事の合間に急いで食べることがほとんどで、天ぷらそば大盛りやカツ丼大盛り、ラーメン&チャーハンをかき込む。愛煙者で、喫煙本数は1日20本超。

“準備”もあって、毎年の健康診断の結果は悪くない。

 今年の健診後の面談では、「中性脂肪以外は問題ない。中性脂肪は高いが、これは食事の影響で上がったり下がったりしますから」と担当の医師や看護師に言われたそうです。

 健診の結果は、自身の健康状態を知るバロメーターになりますが、健診の結果だけをうのみにするのは危険です。

■年末年始の数値がどうなっているのか?

 人には生まれつき持った体質があり、食生活の影響か数値として表れづらい人がいます。

 たとえば、コレステロールは体質が非常に関係している数値です。食生活に気を付け、定期的に運動をしているのに、LDL(悪玉)コレステロールがなかなか下がらない人もいます。この場合、食生活でなんとかするのは難しい。

 ただし、こういう人は日頃の食生活のたまものでLDLコレステロールが高いだけで済んでおり、動脈硬化が進まず、経過観察でOKという場合もあります。逆に少し高いだけでも動脈硬化が進んでしまう場合もあります。

 また、休肝日がなく、毎日ワイン1本程度飲んでいるのに、肝機能の数値が基準値範囲内という人もいます。これも、生まれ持った体質。ただ、ほかの数値は高めだったり、肝機能の数値が基準値範囲内だけど徐々に上がっていったりしていることがあります。毎回の採血は大変ですが、最近の研究ではこれらの変動は体重の変化と関係していると考えられています。これも注目です。

 本来は、1回の結果だけを見るのではなく、過去と比較して数値がどう変化しているか、どの程度の基準値範囲内なのか(ギリギリなのか、余裕なのか)、家族歴はどうかなど、複合的な観点から判断し、今後の対策を講じなくてはなりません。ところが残念ながら、医療者側はそこまでできる時間がない。本人が「自分の体を守るのは自分」という自覚を持って、結果をチェックするしかないのです。

 健診の問題点は「1年に1回、しかも春に行われることがほとんど」という点にあります。一般的に1年のうち、食生活が乱れがちになるのは年末年始ではないでしょうか? この時、数値がどうなっているか。それを知ることが健康を考える上で非常に大事ですが、1年に1回の健診ではそれができない。健診に向けて準備をしている人は、「健診の数値は、本当の数値ではない」と自覚して、見方を変えるべきでしょう。

 例に出した男性は、中性脂肪の高さを指摘されていますが、実は今、医療関係者の間で注目されているのが中性脂肪。特に、食後の中性脂肪です。健診で見るのは空腹時の中性脂肪であり、食後の中性脂肪は調べていない。空腹時の中性脂肪にしても、食事の影響を受けやすいので、“本当の数値”が分かりにくい。健診前、食生活に気を付ければ、数値は下がりますから。だから、医師から注意を受けることもない。ところが、食後の中性脂肪が高いと動脈硬化を進行させ、心筋梗塞、脳卒中などのリスクを高めることが明らかになっているのです。

 現代のビジネスマンの食事が夕食中心になっていることを考えると、寝ている間中、食後の中性脂肪がずっと高いことは容易に想像できます。昼にがっつり食べる人は、日中の中性脂肪も高い。つまり、1日の大半が食後の中性脂肪が高いまま。しかし、私たちはそれを知らない。もっと怖いのは、LDLコレステロールなどは下げる薬がありますが、中性脂肪は薬でコントロールしづらいのです。

 さてみなさん、健診の結果をもう一度見直してみませんか?

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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