これで認知症介護は怖くない

便秘予防のために下剤を使うと「弄便」の被害が大きくなる

紙オムツはできるだけ使わない
紙オムツはできるだけ使わない(C)日刊ゲンダイ

 介護する家族がもっとも不快に感じるのは「便いじり行為」だろう。便を弄ぶと書いて「弄便」という。おもらしで床を汚すことも同じだ。家族は慌てて紙オムツをあてるのだが、今度は紙オムツの中に排泄した便をいじり、汚れた手を壁などに塗りたくる。すると家族はもうパニックだ。

「失禁」「弄便」は、在宅介護から施設への入所を考えるターニングポイントといわれているが、それだけ家族の負担が大きいのだろう。

 では「失禁」や「弄便」は避けることができないのだろうか。長く介護職をされている方に尋ねてみた。

「被害が甚大になるのは、便秘を予防するために下剤を入れている場合が多いためです。医師と相談して、正常な便になるように調整してほしい。排便リズムが乱れていることもあります。朝ご飯を食べたらトイレの便器に座るように誘導するとか、そういうコントロールをしてみるのもいいでしょう」

 もうひとつは、できるだけ紙オムツを使用しないことだ。「無理だろ」と言われる方は、実際に紙オムツをしてそこに排便してみたら分かる。あんな気持ちの悪いことはない。認知症になっても「気持ち悪い」感覚は同じである。だから、次のように自分の便を壁に塗るのだ。

 紙オムツの中に便がある→気持ち悪い→手で取り出してみよう→あれ、手についた→気持ち悪い→壁で拭い取ろう。

 本人は手についた便を隠そうとするのだが、家族に叱られてさらに自尊心が傷ついてしまう。一番ショックを感じているのは本人なのである。

 失禁もこうだ。オシッコをしたいが、体が思うように動かない。そのうえ、トイレの場所を忘れた。探しているうちに「あっ、漏れてしまった!」というわけである。

 むしろ紙オムツをやめて、排便のサイン(落ち着きがないなど)をこまめに観察したり、運動で腸を動きやすくしたり、ベッドのそばにポータブルトイレを置いて排泄が間に合うように工夫したりする方がいいだろう。

 排便の失敗が始まると、やがて寝たきりになるといわれるが、工夫次第で、普通の生活をできるだけ長く続けられるようにすることは可能だ。

 (おわり)

奥野修司

奥野修司

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「怖い中国食品、不気味なアメリカ食品」(講談社文庫)がある。

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