がんと向き合い生きていく

専門医なのに自分のこととなるとおたおたするだけだった

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 8時半、病院の内視鏡室に時間通りに着きましたが、大腸内視鏡検査を受ける患者はなんと12人もいて、私が一番遅い到着でした。男性10人、女性2人。みなさん検査着に着替えて(ズボンは後ろ開き)、ひとつの部屋に集められます。奥さんが付き添った男性は2人いました。

 3つの机にそれぞれイスが4脚。壁に向いたカウンターにもイスが置いてありました。机の上には下剤1・8リットルのパックとコップが人数分置いてあり、説明を受けた後に9時ごろから1時間以上かけて全部飲むように指示されました。この下剤を飲んで便をすっかり出し切らないと検査ができません。

 壁の時計を見ながら、1回200ミリリットルくらいを約10分おきに飲みました。少し甘いのですが、好きにはなれない味です。ひとつの机に4人が向きあって、パックの残りの印を見ながら下剤を飲み続けます。1時間以上、誰ひとり全く会話もない、ため息だけの異様な時間でした。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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