離れて暮らす老親に突然のがん宣告…「看取り」経験を聞く

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 老親と離れて暮らしている人にとって、「親に何かあったら」は常に念頭にあるだろう。本紙水曜日掲載の連載「ニューヨークからお届けします」のシェリーめぐみさんは米ニューヨーク在住。関東地方で暮らしていた母親を、今年はじめに亡くした。享年87。その体験を聞いた。

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 昨年11月中旬にたまたま帰国し、両親が住む実家に泊まりました。すると母親が「足がむくむ」と言い出したんです。これはおかしいと近所の内科で血液検査をしてもらうと、「輸血しないと命が危ない」と。そのまま地域の中核病院に入院。MRIの結果、末期の胃がんで腸や肝臓にも転移しており、「余命3カ月」と告げられました。

 母親の貧血が分かったのは、約1年前。高齢のため、胃カメラや大腸内視鏡などをしませんでした。高齢者の場合、大量のバリウムを気管に詰まらせ、命を落とすなどの危険があるからです。鉄剤を飲んで良くなっていたので安心していたのですが、貧血は胃がんの症状だったのでしょう。

 87歳でのステージ4のがん。手術は無理。抗がん剤も年齢を考えると難しい。私はすぐに診療情報提供書や画像検査結果などの必要書類をそろえ、国立がん研究センター中央病院とがん研有明病院へ1人でセカンドオピニオンを受けに行きました。

 どちらも主治医と同様、抗がん剤は難しいとの意見でした。

 そこで問われたのは、最期を迎える場所です。父親は母親と同い年ですし、「自宅で」は家族の負担が大きすぎる。「病院で」と答えると、医療コーディネーター(地域連携センター看護師)から、すぐに緩和ケア病棟へ入院するための登録をすべきと勧められました。

 母親が入院中の病院は急性期病棟で長くは入院できない。登録をしておけば、すぐに緩和ケアを専門に手がける病院の病棟に入院できるし、もしベッドが空いていなければ、一般病棟に入院し、緩和ケアを受けられるとの説明でした。

■疑問点は何でも医療コーディネーターに相談

 今回の経験で強く感じたのは、家族だけで抱え込まず、疑問点や不明点は何でも医療コーディネーターに相談すべきということ。

 とにかく毎日、何らかの決定を迫られる。判断に迷うことも多い。たとえば母親への告知についても、時に父親を交えて医療コーディネーターと何度も話し合い、最終的に告知はしないと決めました。

 どのタイミングでどういうふうに伝えるかなども、医療コーディネーターに相談に乗ってもらった。今は告知が当然。主治医も「告知が基本」という意見でしたが、最終的には家族の意見が尊重されました。

 もうひとつ感じたことを挙げると、オプションをたくさん考えた方がいい。緩和ケア以外の選択肢はないのか、退院したらどうなるのか、などです。これらは自分から聞かないと教えてくれない。私は有料老人ホームについても調べていましたし、一時的に自宅に戻った時、医師の往診を受ける準備もしていました。結局、母親は急性期病院に入院中に転んで骨折し、自宅に戻れず、緩和ケア病棟に移って1週間もしないうちに亡くなったのですが……。

 今は父親が一人暮らし。ケアマネに相談し、慣れるまではヘルパー週3回、デイケア週2回、計5日は1日1回だれかと顔を合わせて話せる状況をつくっていました。私も1日2回、国際電話をかけています。握るだけで救急信号がセキュリティー会社に送信されるペンダントも渡している。さまざまなサポートを利用すれば、高齢の親でも一人暮らしは可能だと感じています。

 ただし、それも自分で体を動かせる間。歩けなくなったらどうする? それは老人ホームだよね――。母親の死をきっかけに、父親と話し合うことができました。

(談・シェリーめぐみ)

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