Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

大腸がん早期発見の要 検便の「偽陰性」を防ぐ3つの工夫

手術後初めてチームに合流し取材に応じる阪神の原口文仁選手
手術後初めてチームに合流し取材に応じる阪神の原口文仁選手(C)共同通信社

 がんを克服した人には勇気づけられます。阪神の原口文仁選手(27)のことです。

 昨年末の人間ドックで大腸がんが見つかり、年明けに手術を受けたとのこと。一軍復帰を目指して練習に励み、GW後の8日には手術後初めて二軍戦の代打で公式戦に復帰。その後も順調なようで、18日にはフル出場したと報じられました。体調は着実に上向いているのでしょう。

 昨年の罹患数予測で大腸がんは、男女合計で1位。メタボ的な生活習慣との関連性が強く、メタボや肥満の広がりとともに、大腸がんは急速に増えているのですが、早期のうちに手術すれば、100%近く治ります。そのための方法が便潜血検査、検便。その有効性は医学的に証明されていますから、これを利用しないのはもったいないでしょう。

 専用の器具で、便の表面をこすり取って、提出するだけ。とても簡単ですが、イマイチな状態で検査キットを提出すると、本当は陽性なのに陰性という「偽陰性」と判定される恐れがあることをご存じですか。

 そのひとつが、採取後の保存状態と検査日に提出するまでの状態です。説明書には「採取後は冷蔵庫に」と書かれているでしょう。

 大腸がんは血管が豊富で、腫瘍の表面から出血したり、便が通過する時にこすれて血が出たりします。便に含まれる血液成分のヘモグロビンの有無をチェックするのが、検便です。温度が高いと、便に含まれる細菌がヘモグロビンを分解してしまいます。冷蔵庫保存はそれを防ぐのです。

 でも、それだけでは不十分。提出日の持ち運びは保冷剤と一緒に。特に通勤時間が長い人は、なおさらです。

■ビタミンCの取り過ぎにも注意

 もうひとつは、採取日。便は、2日分採取しますが、ベストは検査の当日とその前の日。せいぜい前々日まで。実は、ヘモグロビンは時間が経つにつれて壊れるという不安定な性質。説明書には検査日から1週間以内と書かれていても、検査日に近い方がいいのは、そういう理由です。

 今週末の東京は最高気温が30度を超えるといいます。

 電車の中は冷房が効いていても、キットを入れたカバンは体に密着していることが多い。だから保冷剤で低温をキープすることが、正しく検査をする上でとても大切なのです。

 3つ目がビタミンC。ビタミンCは、ヘモグロビンの作用を相殺する性質があります。採取の前に果物やサプリなどでビタミンCを取り過ぎると、偽陰性になるリスクが高いでしょう。

 進行がとても速いタイプもありますが、一般に大腸がんは進行が遅く、3年ほどは無症状。それでも、「毎年、検便を受けていたのに、見つかった時は手遅れ」といった悲劇を耳にすることは珍しくありません。そんな悲劇の裏に、このような事情が影響している可能性は否定できないのです。

 1回の採便で大腸がんが見つかる確率は45%ですが、2回で70%にアップ。理論上は、3年続けて受ければ、97%の発見率に上昇します。古くさくても有効性は明らかですから、偽陰性を防ぐ工夫が大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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