性感染症最前線

【赤痢アメーバ症】先進国では“夜の生活”が感染源になる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 肛門をなめることで感染(糞口感染)する性感染症がある。全例報告の対象となっている5類感染症のひとつである「赤痢アメーバ症」だ。病原体は消化管に寄生し、糞便中に排出される赤痢アメーバ原虫。潜伏期間は通常2~4週間とされる。どんな症状が出るのか。性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)の尾上泰彦院長が説明する。

「典型的なのは、下痢、粘血便、しぶり腹(便意があるのに便が出ない)、排便時の下腹部痛などの大腸炎症状です。これらの症状が悪くなったり、良くなったりを繰り返します。特に診断の糸口になるのは粘血便です。大腸粘膜の潰瘍からの血液と粘膜が混じったもので、見た目はイチゴゼリーに似ています。しかし、量が少ないとトイレットペーパーに血が付着する程度なので、痔(じ)と思う人も少なくありません」

 また、原虫は血液にのって腸以外の臓器に侵入することもある。その大部分は肝臓に病変ができて表れる「肝膿瘍(のうよう)」の症状だ。この場合、38度以上の発熱、右脇腹の痛み、肝臓の腫れ、吐き気、寝汗などが起きる。大腸炎症例の5%程度が肝膿瘍を合併し肝膿瘍症例の約半数が大腸炎を合併するとされている。赤痢アメーバ原虫は世界人口の10%の糞便から検出されるが、明らかに異なる2種類の原虫に分類される。うち90%を占めるのは人に病原性をもたない非病原種、残りの10%が大腸炎や肝膿瘍を引き起こす病原種だ。

■粘血便には要注意

 発展途上国では汚染された飲食物を口にして感染する可能性が高いため、途上国の帰国者によく見られるが、衛生環境が整備されている先進国での飲食物を介した感染は比較的少ない。先進国で増えているのは性交による感染だ。

「先進国では男性同性愛者(MSM)間の感染が流行していて、それは日本国内でも同じです。ただし、米国のMSM間で流行しているのは非病原種であるのに対して、日本で流行している原虫の多くは病原種です。国内での報告は2013年以降、1000例を超えて横ばいですが、その多くはMSM症例とみられています」

 赤痢アメーバ症の大腸炎症状は、きちんと他の病気と鑑別することが重要になる。他の大腸疾患と誤診されてステロイド薬を使われると、症状を増悪させ、穿孔(せんこう)性腹膜炎を合併させてしまう恐れがあるからだ。治療は抗原虫薬が用いられる。通常、治療後2~3カ月以上症状の再発がなく、糞便中に原虫が検出されなければ治癒と判定されるという。性感染症としての心当たりがあれば、まずは感染症専門医を受診しよう。

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