人生100年時代の健康法

「統計」より患者個々の違いを重視する医療が始まっている

写真はイメージ
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 先ごろスタンフォード大学の研究者たちが発表した論文が、ちょっとした物議を醸しています。

 109人のボランティアのゲノム(全遺伝子)と、血液や尿などのサンプルを、平均2年10カ月にわたって詳しく調べ続けたところ、糖尿病や高血圧といったごく身近な生活習慣病でも人によって異なる道筋をたどって発症することが明らかになったのです。

 言い換えれば、診断上は同じ病気でも、共通しているのは症状だけで、原因はそれぞれ違っているかもしれないことになります。

 そうだとすれば、同じ薬でも、よく効く人と全く効かない人がいるのもうなずけます。

 原因に合った薬でなければ、効果が出にくいでしょうし、逆に副作用ばかり目立ってしまうこともあるはずです。

 ゲノムを含む人体の細かい検査に基づいて「病気をごく早期に発見し、さらには症状が表れる前に治療を行おう」という発想から生まれたのが、「プレシジョン・メディシン(精密医療)」と呼ばれる概念です。

 中でも、特に個々の患者の病気の成り立ちにまで切り込み、それぞれに適した治療を行うことを「パーソナライズド・メディシン(個別化医療)」と呼んでいます。

 20世紀の医療は、統計学に基づいていました。

 いわば「平均」を重視した医療であって、個人差があっても「例外」とか「特異体質」と呼んで、半ば切り捨ててきたのです。

 一方、これから始まる精密医療は、統計よりも個々の違いを重視する医療になるはずです。いまはまさに、20世紀的医療と21世紀の医療の端境期と言っていいでしょう。

 病気ですらそういうことなのですから、健康維持・増進も、各自の体質に合ったことをやらなければうまくいかないのは当然ですし、逆に健康を損ねてしまうこともあるはずです。

 国立健康・栄養研究所のデータベースに「十分なデータが見当たらない」「効果があるという根拠が薄い」などと書かれている健康食品でも、人によっては大きな効果が出るかもしれません。

 これからの健康管理は医療と同様、個別化の方向に向かっていくはず。まさに、パーソナライズド・ヘルスの時代が始まろうとしているのです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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