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アスピリンに大腸がん予防効果が 腺腫再発リスク40%低減

市販のアスピリンとは別ものなので注意が必要
市販のアスピリンとは別ものなので注意が必要(提供写真)

 世界中で、がん予防薬の研究が進められている。特に注目されているのは、解熱鎮痛薬や抗血小板薬として長年使われている「アスピリン」による大腸がんの予防効果だ。

 欧米ではアスピリンを3~4年飲めば、大腸前がん病変(腺腫)の発生リスクは少なくとも20%程度減らせるというコンセンサスができている。2016年には、米国予防医学専門委員会が50~60代の大腸がん予防のために、低用量アスピリンを毎日服用することを推奨(グレードB)している。

 ただし、欧米の試験結果が、そのままアジア人に適用できるとは限らない。国内の日本人を対象とした研究は、14年に国立がん研究センターや京都府立医科大学など、国内19施設が参加した臨床試験「J―CAPP」の結果が発表されている。国立がん研究センター・社会と健康研究センター予防研究部の武藤倫弘室長が言う。

「J―CAPPでは、前がん病変である大腸ポリープ(腺腫)を内視鏡で摘除した患者311人を対象に、低用量アスピリン(100ミリグラム/日)群とプラセボ(偽薬)群で、大腸腺腫の再発を抑制できるか検証しました。結果、アスピリン群はプラセボ群と比較して、大腸腺腫の再発リスクが約40%減少しました。これは、欧米人で報告されている結果とほぼ同等か、それ以上の効果を示しました」

■喫煙者は逆にリスクが高くなる

 この研究結果で興味深いのは、喫煙者と非喫煙者では効果が違う点。

 非喫煙者では再発リスクが63%と大幅に減少した一方で、喫煙者では逆にリスクが3.45倍も高くなった。その後、海外でも同様の試験結果が報告されている。また、飲酒頻度が週3回以上の人もアスピリンの予防効果が減弱していたという。

 そこで、第2弾として現在、確実に大腸がんの予防効果が期待できる人を絞り込むための試験(J―CAPP2)が行われている。大腸腺腫を摘除した患者4500人(40~60代)を対象に、低用量アスピリンを4年間飲んでもらう。そして、患者の遺伝的背景や生活習慣などがアスピリンの予防効果にどう関連するのか調べるのだ。

「J―CAPP2では血液採取で、アルコールとアセトアルデヒドを分解する酵素(ADH1B、ALDH2)とニコチンの代謝に関わる酵素(CYP2A6)の3つの遺伝子多型を調べています。これらの遺伝子の違いとアスピリンの効果の因果関係を見いだしたいと考えています」

 アスピリンの大腸腺腫抑制のメカニズムは、主に、抗炎症作用、抗酸化作用、大腸がん抑制遺伝子APCの変異によるシグナル異常の改善作用が考えられている。

 ちなみに、処方薬の低用量アスピリン(腸溶錠)と市販のアスピリンは別もの。

 自己判断で市販薬を連用すると、消化管出血などの副作用の恐れがあるので、絶対にやってはいけないという。

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