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【鯵どんぶり】良質なタンパク質が脳や血管老化防ぐ

鯵のどんぶり、新海苔の吸い物、骨せんべい
鯵のどんぶり、新海苔の吸い物、骨せんべい(C)日刊ゲンダイ
ホールフード主義<4>鯵づくし

 これから夏にかけて旬の鯵は、おいしいだけでなく、栄養面でも優秀な食材です。

 まずは良質なタンパク質が豊富です。食品のタンパク質が良質なものかどうかを示す指標に「アミノ酸スコア」があります。アミノ酸スコアが100に近いほど、体内でタンパク質が有効活用されるのです。鯵は牛乳や鶏卵、豚肉、鶏肉などと並んでアミノ酸スコアが100ですから、極めて良質なタンパク質と言えます。

 タンパク質は筋肉や臓器をはじめ、人体のあらゆる組織をつくるために必要不可欠な栄養素なのです。

 加えて脳の老化を防ぐDHA(ドコサヘキサエン酸)や血管の老化を防止するEPA(エイコサペンタエン酸)も多く含んでいます。

 そんな鯵の栄養素をすべて摂取しようと思ったら生に限ります。旬ですし、新鮮なものが手に入りやすいので、今回はどんぶりにしました。

 ご飯のうえに大根のつま、きゅうり、大葉をタップリ。その上に鯵の切り身をのせ、豆板醤ソースでいただきます。豆板醤はそら豆と赤唐辛子に、塩と小麦粉を加えて漬け込み、天日で干しながら3年間発酵熟成させた中国料理の調味料です。豆板醤を加えることで、コクとまろやかな辛味が加わって、鯵のうま味をいっそう引き立てます。

 もちろん骨もいただきます。今回はうま味を加えるため、小魚を塩蔵して発酵させた調味料のナンプラーで塩気を補い、カリッと仕上げます。

 新海苔の吸い物はあえて煮ないことで、その風味を楽しめるのです。

《材料》
◎鯵 中くらいの大きさのものを3尾
◎きゅうり 1本
◎大根 3センチ
◎大葉 1束
◎醤油 4分の1カップ
◎ショウガのすりおろし 大さじ1、適宜
◎米酢 大さじ2
◎豆板醤 小さじ1

《作り方》
(1)鯵を三枚におろし、骨は取り置く。腹骨をそぎ、中骨の気になる部分を抜き、皮を剥いたら、一口大のそぎ切りにする。醤油、ショウガのすりおろし(大さじ1)、米酢、豆板醤を合わせておく。
(2)きゅうりは斜め薄切りにしてから千切り。大根は皮を剥き、繊維に沿った千切りに。おのおのペーパータオルに包み冷蔵庫に入れ、余分な水分を飛ばす。大葉は棒状にしてから千切りにすると細く切れる。いったん水にさらし、水気を切り、ペーパータオルで包んでからしっかりと絞る。千切りにした大葉をさらに手でちぎるとより風味が立つ。
(3)器に盛ったご飯の上にきゅうり、大根、大葉を混ぜたものをのせ、その上に鯵の刺し身を。鯵の上にショウガのすりおろし(適宜)を添え、①で合わせておいた豆板醤ソースをかけていただく。


■骨せんべい      
 骨の間の血合いをようじなどで取り除く。3尾分の鯵の骨を、水(1カップ)、ナンプラー(大さじ2)、酒(大さじ2)を合わせた中に15分間漬ける。市販の脱水シートに包み、一晩、冷蔵庫におく。部屋の中でも構わないので、できれば平ざるの上で半日、陰干しをするとより良い。魚焼きグリルであぶるか、素揚げにして。

■新海苔の吸い物    
 だし3カップを沸かし、酒大さじ3、塩小さじ2分の1で味を調える。新海苔を目の細かいザルでさっと洗い、水気をしっかり切り、お椀に適量入れておく。温めただしに香り付けの薄口醤油を加えたら火を止め、お椀に注ぐ。

▽松田美智子(まつだ・みちこ) 女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

三枚におろし、骨は取り置く
三枚におろし、骨は取り置く(C)日刊ゲンダイ
我々の骨の原料になる魚の背骨は脊椎動物大発展の礎

 海辺で鳥を見てみると、くちばしで捕らえた魚を、上を向いて上手に喉の奥に入れ、そのまま丸のみしてしまう。頭から尻尾まで、魚のいのち全体をホールフード(まるごと食品)としていただく。そこにはすべての栄養素が含まれているから。生命の基本である。

 ちなみに、ヒレやトゲが喉にひっかかると痛くないのかと思うが、鳥も工夫している。たとえば、カワセミのオスは捕らえた魚をメスにプレゼントするが、そのときちゃんと持ちかえて頭を先にして差し出している。さすがに我々は魚を丸のみできないので、骨までいただこうとすると調理に工夫がいる。ここでは高温で香ばしい骨せんべいにした。

 骨はカルシウムの塊。私たちの骨の原料になる。それだけではない。およそ5億年前、それまでクラゲやミミズのようになよなよしていた生物から魚が進化したとき、一大ジャンプが起きた。背骨の発明である。背骨のおかげで生物は体を支え、大型化することができた。以降、両生類、爬虫類、鳥類、そして我々哺乳類に至る脊椎動物の大発展は、もとはといえば魚が背骨を作ってくれたおかげである。骨せんべいに心からの感謝を。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち) 1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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