進化する糖尿病治療法

「たまにはいいよね」の「たまに」は本当に「たまに」?

本当に「たまに」?
本当に「たまに」?

 今回は、「たまにはいいよね」問題についてお話ししたいと思います。

 ダイエット中だけど、たまに友達と会った時くらい思う存分食べてもいいよね。減塩しているけど、誕生日だから気にしなくていいよね。摂取カロリーに気を付けてと医師や管理栄養士に言われているけど、今日くらいラーメン食べて帰ってもいいよね……。

「たまにはいいよね」という言葉の誘惑に、負けてしまった経験がある人は多いでしょう。糖尿病や高血圧など生活習慣病は、一生うまく付き合っていかなければなりません。だから、たまにハメを外してしまっても、ほかの日でカバーできれば特に問題はありません。たまのご褒美の日を楽しみに、日々、栄養のバランスに気を付けた、減塩・減脂肪の食生活を続けていけるなら、それはそれでいいことでしょう。

 しかし、立ち止まって考えていただきたいのは、「たまに」というのがどれくらいの頻度なのか? 年に1~2回ならOK。でも、毎週、毎月のように「たまに」が重なるようなら、当たり前ではありますが、それはすでに「たまに」にはなりません。

 そしてもうひとつ。これは他者に指摘されないと本人がなかなか気付きづらいかもしれませんが、「たまに」ほどではなくても、細かな“イベント”が日々ないか、ということ。

 月曜日は仕事の打ち合わせを兼ねて取引先と夜に食事。火曜日は子供の成績が良かったことを祝って自宅で焼き肉。水曜日は部署の送別会。木曜日は自宅で夕食を取るが、食後に妻とワイン。金曜日は会社の同期の仲間との飲み会。土曜日は家族で遊園地に行って帰りはファミリーレストランで夕食。日曜日は妻の両親が自宅に遊びに来たので出前の寿司を取った――。

 この場合、「自宅で焼き肉」「食後に妻とワイン」「同期との飲み会」など一つ一つは久しぶりかもしれません。しかし、「だれと」「どういう理由で」を除いて考えれば、飲み過ぎたり、食べ過ぎたりといった危険を抱えた食生活を連日送っていることになります。

 30~50代の働き盛りの年代であれば、平日、細かな“イベント”が日々あるのは当然とも思います。また、妻、子供たち、双方の親との時間も大切にしたいと考えれば、土日だって忙しいでしょう。自分には日常的な外食であっても、妻や子供たちはそうではない。必然的に、1週間のほとんどの日程を、身体も内臓も休みなくフル回転で働くことになります。

 冒頭の「たまにはいいよね」に戻ると、特に生活習慣病を発症しやすい年代である30~50代には、本当の意味での「たまに」はないと考えた方がいい。前述のように、「だれと」「どういう理由で」を抜き、「何を食べたか・飲んだか」で考えれば一目瞭然でしょう。

■少しでも体への負担を減らせる飲み方・食べ方を意識する

 仕事上の付き合いや家庭サービスをやめましょう、と言っているわけではありません。そんなことは非現実的な提案です。それぞれの場合で、体への負担を少しでも減らせる飲み方・食べ方をしましょう、と言いたいのです。特にイベントが多い冬場には気を付けていただきたいです。

 それではどうすればいいでしょうか? たとえば家族と過ごす日は、子供たちにならってノンアルコールデーにする。会社の仲間との気の置けない飲み会などは、つまみを豆腐や枝豆、豚しゃぶ肉といった高タンパク・低脂肪のものを中心に選ぶようにする。食事のメニューを自分では選びづらい仕事絡みの会食では、逆に酒の量を控えめにする。「“イベント”が続いているのが、今の自分の食生活なんだ」としっかり認識していれば、その場、その場でできることをうまく選択していけるはずです。

 また、夜多く食べるので、朝、昼を極力少なくするのも栄養、吸収のバランスから見て長期的には良くありません。人によっては、時々むちゃな食生活をする方が、それまで通りの規則正しい食生活に戻すのが大変になる、という話も聞きます。確かに、年末年始に暴飲暴食をしたら、その後、以前の粗食に戻すと、味気なさを一層感じたという人は結構いるのではないでしょうか。

「たまにはいいよね」は、何でも許してしまう魔法の言葉です。現実を直視し、魔法の言葉に惑わされないようにしましょう。少しでも意識していただき、習慣づけることが大切です。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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