K医師は少し冷静になって、しばらくN医師の話を聞いてから「ありがとう、それではまた……」と電話を終えました。
K医師は、生命倫理学の「人格論者」が頭に浮かびました。米国の哲学者エンゲルハートらの人格論者は正常な命を価値ある命とし、「幼児、老衰者、発達障害者、重度精神障害者など」を社会的な意味での人格として、「経済的・心理的な負担を担うなら、その尊厳は否定できる」としました。しかし、彼らは、命はたったひとつのもの、かけがえのないもの、代理不可能であることを考えていません。認知症でも、生きている価値がないなどと考えるのはまったくの論外。そして家族にとっても大切な命なのです。
K医師は、N医師に自分の考えを手紙にして出すことにしたそうです。
■本コラム書籍「がんと向き合い生きていく」(セブン&アイ出版)好評発売中
がんと向き合い生きていく