がんと向き合い生きていく

認知症でがんになったら治療で命を延ばす意味はないのか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 K医師は少し冷静になって、しばらくN医師の話を聞いてから「ありがとう、それではまた……」と電話を終えました。

 K医師は、生命倫理学の「人格論者」が頭に浮かびました。米国の哲学者エンゲルハートらの人格論者は正常な命を価値ある命とし、「幼児、老衰者、発達障害者、重度精神障害者など」を社会的な意味での人格として、「経済的・心理的な負担を担うなら、その尊厳は否定できる」としました。しかし、彼らは、命はたったひとつのもの、かけがえのないもの、代理不可能であることを考えていません。認知症でも、生きている価値がないなどと考えるのはまったくの論外。そして家族にとっても大切な命なのです。

 K医師は、N医師に自分の考えを手紙にして出すことにしたそうです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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