休職させない精神科医療

うつ病の原因は働く側にも 禁酒と7時間睡眠で不調を改善

生活リズムを整えるだけで劇的に改善
生活リズムを整えるだけで劇的に改善(C)日刊ゲンダイ

「休職させないうつ病治療」を目指している「独協医科大学埼玉医療センター」(埼玉県越谷市)こころの診療科教授の井原裕医師(顔写真)。長時間労働やパワハラが関係しているうつには、診断書に専門家の意見を記すことで会社と交渉し、職場環境を改善させる方法を昨日は紹介した。それとは別に、それほどパワハラなどが見られない場合は、次のような診断書を提出することもある。

「7時間の睡眠を条件に就業継続可能」

 実はうつ病の発生には、睡眠不足や生活習慣の乱れ、飲酒などが深く関係しており、これを直すだけで、かなりのうつ病が改善するということを井原医師は長い経験からよく知っているのだという。

「私は『うつ病の原因が例外なく会社側にある』とは思いません。労働者側の自己保健(自分の健康を整える)義務の問題もあると思います。毎晩大量に飲酒したり、一晩中ゲームをしたりしていたら、昼間体調が悪くてぼーっとするのは当然です。労働安全衛生法は会社側の安全配慮義務(健康管理責任)を定めるとともに、その裏返しで本人にも健康管理義務があると理解されています。体調を整えて会社に出てくるのも、ある程度は労働者の義務なのです」

 中でも、井原医師が重要視するのが、規則正しい睡眠覚醒リズムだ。

「私は、うつ病や双極性障害の基底に睡眠・覚醒リズムの失調があると考えます。気分の甚だしいアップダウンは、不安定な睡眠覚醒リズムがもたらした2次災害にすぎません」

 受診する患者には、毎日の起床時間と就寝時間を記録した「睡眠日誌」の記入を求めている。

「私は、就寝と起床のリズムのデータを見れば、その人の精神状態が今後悪化するか否か、大体予想できます。あとは昼間の眠気に注目します。昼下がりに眠くなって、30分ほどの昼寝で回復するなら心配なし。でも、午前中からずっと頭が重いなどの状態はよくない。また、夕食後すぐに眠くなっていったん寝た後、真夜中に目が覚めて3時間くらい起きているとか、睡眠が2分割になっているケースも、睡眠効率としてはよくない。そうならないためには、例えば23時に寝て6時に起きるというように、睡眠のリズムを毎日一定にするように心掛けることです」

 井原医師によれば、躁とうつを繰り返す双極性障害の人は、何かを始めると熱中して体が疲れていることに気付かずに睡眠を削って仕事をしてしまう。そのため、平日には4、5時間しか眠らず、休日に9時間以上寝だめするということをしがちだが、これが心の健康の大敵。この睡眠時間の激しい長短が気分変調を起こす原因なので、休日の寝だめが必要なくなるほど平日は十分な睡眠をとり、一定の睡眠リズムを心掛けるべきだという。

 実際、他の病院で「双極性障害」と診断されたが、睡眠リズムを整えるだけで劇的に改善し、薬が必要なくなった患者さんを多数経験しているそうだ。

(フリージャーナリスト・里中高志)

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