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【アサリの納豆チゲ】微生物と発酵のパワーで生活習慣病予防

アサリの納豆チゲ、奥は左から雑穀ご飯と韓国風刺し身サラダ
アサリの納豆チゲ、奥は左から雑穀ご飯と韓国風刺し身サラダ(C)日刊ゲンダイ
発酵食品 #1

 メインのアサリの納豆チゲにも、韓国風刺し身サラダにも使用している調味料はコチュジャンです。

 コチュジャンとは、米、麦、大豆、麹、粉唐辛子などを発酵させた醤のこと。同じ辛口の醤でも炒めることで辛味を油に移して使うことが多い豆板醤に対して、コチュジャンは糖度があるので焦げやすく、炒め物には向きません。調理の最後に辛味とうま味を加えるとよいでしょう。

 キムチも含めた発酵食品には、麹菌や乳酸菌など微生物のパワーと、発酵が新たに生み出すパワーが備わっています。それらには整腸作用、美肌作用、免疫調整作用、血圧や血糖値改善につながる生活習慣病予防作用などがあります。

 その代表ともいえる納豆には、血液をサラサラにする成分で知られるナットウキナーゼだけでなく、前立腺がん、脳梗塞、心筋梗塞のリスクを低下させるといわれるイソフラボン、血管が硬くなるのを防ぐビタミンK2などが含まれています。

 納豆とともにチゲに入れるアサリも、老化防止の栄養素が豊富です。タウリンには心臓病や高血圧などの生活習慣病の改善作用、亜鉛には細胞を酸化させる活性酸素を除去する効果があります。

 韓国では刺し身と野菜をサラダ風に合わせたものを「フェ」といいます。ここではイカを使いました。野菜はあえて歯応えを出すため、繊維に沿って切ります。

《材料》
◎ニンニクのみじん切り  小さじ1
◎ごま油  大さじ1
◎豚バラ肉薄切り 100グラムを3センチ幅に切って
◎キムチ(市販のなるべく無添加のもの) 1センチ幅にして1カップ
◎アサリ 300グラム(砂出しし、殻をこすり合わせて洗い、水を切る)
◎納豆  1パック
◎ジャガイモ 中1個の皮をむき7ミリ幅に
◎チキンスープ  3カップ
◎酒  大さじ3
◎豆味噌  約大さじ1
◎コチュジャン 小さじ1~大さじ1
◎タマネギ 2分の1個分のざく切り
◎木綿豆腐 2分の1丁(軽く水気を切り4つにちぎる)
《作り方》

(1)土鍋にニンニクのみじん切りとごま油を入れて中火に。豚バラ肉、キムチを加えて炒めたら、アサリを入れてさっと火を通す。これに納豆、ジャガイモ、チキンスープ、酒を加えて蓋をする。中火でアサリの殻が開くまで煮る。

(2)蓋を取って味見。豆味噌で味を調え(写真)、ジャガイモが軟らかくなったところにコチュジャンを加える。最後にタマネギと木綿豆腐を加えて、さっと火を通す。

■韓国風刺し身サラダ 

 イカの刺し身、繊維に沿って短冊切りにしたキュウリとセロリ、芯を除いて斜め切りにした長ネギ、皮ごとマッチ棒状に切って塩水で色止めしたリンゴを用意。ごま油大さじ2、米酢大さじ2、醤油大さじ1、ニンニクすりおろし小さじ3分の1、コチュジャン小さじ2、コショウを合わせたドレッシングですべてを合わせて、香菜をあしらう。
雑穀ご飯      

 白米1カップに、丸麦4分の1カップ、黒米大さじ1を一緒にとぎ、15分浸水、10分水切りし、同量より1割多めの水で炊く。

▽松田美智子(まつだ・みちこ) 女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。

納豆には納豆菌、キムチには乳酸菌。うま味や甘味が増す
納豆には納豆菌、キムチには乳酸菌。うま味や甘味が増す(C)日刊ゲンダイ
食材の潜在能力を引き出し、花開かせる魔法

 私は勤務する大学(青山学院大学)で、新入生向けに生命科学の基礎を教えている。食べ物には賞味期限(おいしく食べられる)や消費期限(安全に食べられる)があり、それを過ぎるとダメになるのは知っていると思うけど、ダメになるのは“生命現象”であることは知っていましたか?と言うと、多くの学生が「えっ」という顔をする。金属がさびたり、岩が風化するのと同じだと思っていたのかな。

 食品は植物性のものであれ、動物性のものであれ、すべて他の生物のからだの一部をいただいてきたものだから、そこには生命現象が包み込まれている。そこら中に存在する微生物もたくさん付着している。だから時間が経過するにつれ、雑菌がどんどん増殖して人間が食べる前に食品を食べてしまう。その過程で臭いにおいや有害物質を作ったりもする。これがダメになるということ。正確にいえば「腐敗」である。

 一方、このプロセスを上手に利用すると食品をよりおいしく、風味豊かにいただくことができる。こちらは人間の食文化の中で育まれてきた「発酵」だ。だから腐敗と発酵はコインの裏と表といえる。食材を腐敗させずに発酵させるためには、雑菌でなく、ちゃんとした良菌と条件を選ばなければならない。納豆には納豆菌、キムチには乳酸菌である。これらの菌は酵素による分解力が強いので、タンパク質をアミノ酸に変え、炭水化物を糖に変えてくれる。つまりうま味や甘味が増す。また菌の代謝作用によって香味成分や酸味成分が出る。つまり、発酵は食材の潜在能力を引き出し、花開かせる魔法といえる。発酵は日本をはじめアジアの食文化の得意技。細工は流々、仕上げをご覧じろ。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち) 1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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