Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

阪神原口は一軍復帰 若年発症の大腸がんは35%が遺伝性

9回、代打で適時二塁打を放ち、ガッツポーズする阪神の原口
9回、代打で適時二塁打を放ち、ガッツポーズする阪神の原口(C)共同通信社

 精神力が素晴らしい。今年1月に大腸がんを公表した阪神の原口文仁捕手のことです。4日のロッテとの交流戦で一軍に復帰すると、九回に代打で出場し、フェンス直撃のタイムリー二塁打ですからね。持っている男は違います。

 原口選手は27歳。一連の報道を耳にした皆さんは、原口選手の若さに驚かれたかもしれません。なぜ、その若さで大腸がんに、と。

 年齢別に見ると、大腸がんは40歳を越えると、年齢を重ねるにつれて増えます。日本の大腸がんは欧米と比べて10歳ほど若く発症する傾向で、最近はさらに若年化が進んでいるといっていいでしょう。大腸がんの若年化は世界的な流れなのです。

 米国では、50歳以上で大腸がんになる人の割合が、2000年以降32%も減少。亡くなる割合も34%減っています。特に65歳以上は顕著で、男性は38%、女性は41%も罹患率が減少したのです。一方、50歳未満はどうかというと、2000年から13年にかけて22%も罹患率が増えています。

 大腸がんの発症には、生活習慣の要素が強くかかわっていて、動物性脂肪やタンパク質の過剰摂取や繊維質の不足、肥満などが関係していて、いわばメタボとの結びつきが強い。日本で低年齢化を伴って患者数が急増しているのは、日本人の生活習慣がメタボ化しているゆえんです。

 しかし、全体の5%前後は、遺伝的な要因で発症するといわれます。米テキサス大MDアンダーソンがんセンターの研究によると、35歳以下での発症は、35%が遺伝性と報告。若い方の大腸がんは、遺伝性の可能性が強いといえます。その点を踏まえると、断定はできませんが、原口選手も遺伝性かもしれません。

 原口選手は、昨年末に受けた人間ドックで大腸がんが発覚したそうです。若年発症であってもなくても、早期発見・早期治療は変わりませんし、それが早期復帰を可能にしたのは間違いありません。

 生活習慣のほかに大腸がんにかかりやすい危険因子は、いくつかあります。大腸ポリープになったことがある、血縁者に大腸がんになった人がいる、痔ろうなど。

 胃のポリープががん化することはまれですが、大腸ポリープはがんの温床。見つかったときの大きさにもよりますが、切除が必要です。痔ろうもすぐに治療すべきでしょう。

 大腸がんの家族歴がある人の中でも、若年発症しているケースはカウンセリングの上、遺伝子検査を受けるのもいいかもしれません。その結果を家族で共有し、早いうちから生活改善に取り組んだり、定期的な検査を受けたりすれば、大腸がんの予防になります。原口選手のように、悪化させることなく仕事に復帰できる可能性が高まるのですから。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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