病み患いのモトを断つ

発生件数ノロ以上 カンピロバクター食中毒はこう撃退する

鶏肉は中までよく火を通して
鶏肉は中までよく火を通して

 気温の上昇で食中毒が相次いでいる。先月23日には、山口県下関市のホテルで、小学校の修学旅行グループ144人が食事したところ、33人がノロウイルスに感染。今月1日には、兵庫県加東市の凸版印刷の工場の社員食堂で提供された「牛カツ玉子とじ」から黄色ブドウ球菌が出す毒素が検出されたという。

 どちらも食中毒の原因としてはおなじみだが、実は最も多いのが、カンピロバクターだ。3年前には、「肉フェス」で東京と福岡の会場を合わせて900人近い大規模食中毒を起こしたこともある。どうやってカンピロ食中毒から身を守るか。横浜創英大の則岡孝子名誉教授(栄養学)に聞いた。

「カンピロバクターは、鶏や牛、豚などの腸管にいる細菌ですが、特に汚染率が高いのが鶏です。市販鶏肉の汚染率は50%以上といわれていて、調査によっては100%近いこともある。牛や豚の汚染率がそれほど高くないことを考えると、恐らく鶏の加工過程に問題があるのでしょう」

■持ち帰り総菜はレンジで加熱

 厚労省の「食中毒発生状況」によると、1998年の原因物質別の発生状況は、腸炎ビブリオとサルモネラ菌で半数を超え、カンピロバクターは“泡沫”だったが、2018年は細菌部門のトップ。ウイルスを含めても、悪名高いノロを63件も上回る319件。寄生虫のひとつ、アニサキス(468件)に次ぐ多さである。

 その割にあまり注目されていないのは、散発的な発生が多いため。潜伏期間が1~7日と長く、原因を特定しにくく、同じものを食べても発症する人としない人がいて、食中毒と思われにくいためだという。肉フェスのような集団発生は、まれなのだが、そこに予防のヒントが隠されている。

 肉フェスで“大事故”を起こしたメニューは、ささみ寿司だった。

「鶏肉のカンピロバクターによる食中毒は、鶏刺しやタタキなど生食や加熱不足がほとんどです。カンピロバクターは肉の表面だけでなく、内部にまで入り込んでいます。ジューシーさを残すためや、つくねや唐揚げなども中心部は生のことが少なくありません。それで感染する恐れもある。鶏料理を食べるなら焼き鳥や照り焼き、水炊き、サムゲタン、タンドリーチキンなど中心部までしっかりと火を通すものが無難です」

 カンピロバクターを防ぐには、75度以上で1分加熱するのが鉄則。肉フェスのような寿司はともかく、加熱料理なら、大抵この基準は守られているはずだが、件数は減るどころか、相対的に増えている。

「十分加熱すれば、細菌の数は確実に減ります。熱いうちに食べればいいのですが、生焼けの部分があって、時間がたつと菌が再び増える。たとえば、縁日やグルメイベントなどでは、調理から時間がたっていることが往々にしてある。そういうものは、加熱調理でもカンピロバクターの汚染リスクがゼロではありません。スーパーやデパ地下の総菜もしかりで、鶏料理を持ち帰って食べるなら、必ず電子レンジで加熱することです」

 グルメイベントは、鶏以外のメニューがたくさんある。カンピロバクターを徹底予防するなら、牛や豚のメニューをチョイスすればいい。

 感染すると、下痢や嘔吐に加えて、発熱に苦しめられる。症状はほかの細菌やウイルスと変わらないが、厄介なのは治療が遅れると、手足がマヒして力が入らなくなるギランバレー症候群を併発する恐れがあること。ギランバレー症候群のうち4割はカンピロバクター感染が原因といわれるだけに、「たかが下痢」と軽く考えない方がいいだろう。

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