進化する糖尿病治療法

体重は減ったのに悪玉コレステロールが上昇した原因は?

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病治療のために外来に通っている患者さんで、「体重は減少し、血糖値やヘモグロビンA1cは下がった。しかし、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が上がった」という場合、真っ先に疑うのは、糖質制限です。

 これらの患者さんに聞くと、7割くらいの方が「糖質制限をしている」と答えます。彼らのほとんどは、糖質を“ほどよく摂取する”という意味での「制限」ではなく、「ある一定の期間、食べない。糖質をカットする」という、徹底したやり方を実践されている方が多いです。

 糖質を取らないようにすると、短期間で驚くほど体重が落ちます。

 効率よくダイエットしたい人には、うってつけの方法だと思われるでしょう。

 ところが、糖質カットを長く続けることは、大部分の人にとって非常に困難です。

 糖質制限で痩せたけど、その後、普通の食事に戻した。すると一気に痩せる前の体重に戻ってしまった、という人が大半です。

 いえ、体重が元通りになるだけなら、まだいいのかもしれません。糖質は、タンパク質と同様に筋肉を作るのに不可欠な栄養素。ボディービルダーなど美しい筋肉をつけることを目的にトレーニングをしている人は、必ず糖質を食事で取り入れているほどです。糖質制限で糖質をカットしたために筋肉量が減ってしまい、体重は元通りでも、体脂肪率は上がってしまう。つまり、糖質制限を始める前よりも“太って”しまうケースがほとんどなのです。最近では体重の増減は寿命に悪影響があるという報告も多くなされています。

「私は糖質制限をずっと続けられる」という人もいるかもしれません。それでも、私は過度な糖質制限には反対です。長期的に見て糖質制限が体に良いという報告より、むしろ、その逆が多いからです。

 米国で行われた糖質制限に関する複数の研究をまとめた結果によると、45~64歳の成人を25年間追跡調査したところ、糖質の摂取の割合50~55%が最も長生き、40%未満で死亡率1・2倍、70%超で1・23倍というものでした。糖質は少なすぎても駄目、多すぎても駄目、ほどほどに取らなければならないということ。別の研究で、糖質制限が心臓病を増やすという結果も出ています。

 糖質を制限すると、如実に悪玉コレステロールの数値が上がる方がいる。遺伝的な体質を含め、さまざまな議論はありますが、糖質の代わりにおかずの量が増えている場合、味付けをした料理を食べる量が増えている。結果として、塩分摂取が増えている。または、動物性の脂質やタンパク質が過剰摂取につながっている方も多いのです。

 糖尿病に関する血糖値やヘモグロビンA1cの数値が下がっていても、悪玉コレステロールの上昇のみならず、血圧、中性脂肪、高尿酸血症などほかの生活習慣病のリスクが上がることもあります。近年ではSGLT2阻害薬といった心臓や腎臓への好影響を示した薬などが多く使用されています。この場合にも過度の糖質制限は避けなければならないのです。

 私は食事を楽しんでいただきたいと考えています。そのためには、糖質とは、ぜひとも上手に付き合ってほしいと思います。理想は、活動量が多い朝と昼は糖質を取り、活動量が減る夜は糖質の摂取量を少なめにすること。仕事などで昼夜逆転の生活をしている人は、活動量が多い時間帯の食事に糖質を取るようにして下さい。

 糖質を取る場合も、カツ丼、牛丼、カレー、ラーメンといったご飯や麺類など糖質がメインの食事ではなく、糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルがバランスよく取れる食事が望ましいですね。

 ある患者さんが「糖質制限をしているんです」と言いました。ところが、血糖値やヘモグロビンA1cは高いまま。食事内容をチェックすると、朝、昼、晩の食事では糖質を一切取っていない。この患者さんは、ご飯やパン、麺類は食べていなかったのですが、果物や菓子を日常的に取り、甘い缶コーヒーも愛飲していた。それが血糖値、ヘモグロビンA1cが下がらない理由でした。果物や菓子、甘い飲料も糖質摂取になることをお忘れなく。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

関連記事