看護師僧侶「死にゆく人の心構えと接し方」

治療をせずに死を急ぐ主人には家族に対する愛はないのか

玉置妙憂さん
玉置妙憂さん(C)日刊ゲンダイ

 およそ20余年に及ぶベテラン看護師が、8年前、46歳で長い黒髪を切り、出家(高野山真言宗)。1年間の修行を経て僧侶になった。

 二足のわらじを履く玉置妙憂さん(53)が出版した「まずは、あなたのコップを満たしましょう」(飛鳥新社)、「死にゆく人の心に寄りそう」(光文社新書)が、相次いでベストセラーになっている。

 外科医専門の看護師または僧侶として、多くの人の死と向き合い、病床に伏す患者の家族介護を見守ってきた。

「死とはなに?」「死に寄り添うとはどういうこと」「介護はどうあるべきなの」

 著書に医学や介護の常識を覆すような主張が織り込まれ、これがまた読者の共感を得たのかもしれない。

 最愛の夫、哲さんをがんで亡くしたことが剃髪する直接の動機になった。

 東京・中野生まれ。大学で法学を学び、法律事務所に勤務していた玉置さんは、30歳の時に看護師資格を取得した。

 長男が重度なアレルギー症状を持っていたことから、「私が看護師になって、息子に寄り添ってあげたい」と思う母心である。

 主婦を務めながら病院に勤務して数年後、カメラマンの主人が「大腸がん」の告知を受けた。

 数時間に及ぶ手術を受け、幸い体調を取り戻す。しかし、5年後に再発して「すい臓がん」と「胆管がん」に転移。「余命は3年」と宣告された。

 医師から再発の治療法として①手術②抗がん剤③放射線療法の説明を受けた。ところが主人はためらうことなく、第4の治療法を選択する。

 第4の治療法は、「なにもしない治療」の選択である。1日でも長生きを願う看護師の玉置さんにとって、主人の治療選択には納得ができない。

 夫婦間の口論もあった。しかし、堅物、頑固なご主人は、「残る余生は自分でこれまで撮影した作品の整理に打ち込みたい。入院したら、それができなくなる!」と反発した。それならせめて「抗がん剤」だけでも飲んでほしいと願ったが、「延命治療はもういいから。点滴もいい」と、医薬品の服用さえも拒否した。

 玉置さんは、このご主人の説得に折れた。

「でも当初、死を急ぐ主人には家族に対する愛はないのか、と思いました。私自身、親戚からも批判されましてね」と、回想する。

 しかし、自宅に閉じこもり、ため息をつきながら、こつこつフィルム整理を行っている主人の後ろ姿を見て、「死を迎える人の意思を尊重しなければと思いました。そのためなら、『治療をしない選択』も、治療のひとつではないかと納得したのです」。

 主人は、「いつか私の写真を出版してくれ」と、言い残し、枯れ木が折れていくような自然体で、62歳の生涯を閉じたという。

玉置妙憂

玉置妙憂

東京都生まれ、53歳。専修大学法学部卒業後、法律事務所に勤務。長男の重い病気が動機になり30歳の時、看護師資格を取得。46歳の時に、がん闘病の主人を自宅でみとった後、高野山真言宗に得度した。臨床宗教師としても講演、執筆活動を行っている。「大慈学苑」主宰。

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