看護師僧侶「死にゆく人の心構えと接し方」

「延命治療拒否」の遺言があると病院の対応が違ってくる

(C)日刊ゲンダイ

 遺産相続で、残された家族がトラブルを起こさないように「遺言状」を書き残す。

 高齢化社会である。遺書の書き方に強い関心が持たれてきているが、看護師にして僧侶、臨床宗教師の資格も持つ玉置妙憂さんが言う。

「遺産相続に関する遺書も大切でしょう。でも、自分の終末治療についても、遺言書として書き残しておくことも、意外と重要なのです」

「終末治療の遺言」がなぜ重要なのか。玉置さんは自らの体験を踏まえてこう口を開く。

 7年前、最愛の主人をがんで亡くした。「大腸がん」の手術から5年後、がんが再発し、「すい臓がん」「胆管がん」に転移。「余命3年」と告げられた時、ご主人は一切の治療を拒否したという。

「医薬品、点滴も断ったのです。理由は、もし入院したら、“残された私の仕事(カメラマンとしての作品整理)が出来なくなる”というものでした。仕事を完成させるために、余命のすべてをかけたのです」

 玉置さんは、ご主人の強い希望をかなえてあげたいと。心を鬼にして病院の治療を拒否する。

 問題は親族だった。

「妻が看護師なのに!」と批判が巻き起こり、玉置さんは窮地に立たされてしまう。

「でも、主人の意思を尊重したい。意思を貫き、人生の終末を迎えることもいいのかなと思いました」

 説得の材料として遺言状があったらどうだったろうか。親族や病院に、主人が残していた遺言状を見せ、「本人の意思でしたから」と説明したら、説得にも重みが増したのではという。

「私は看護師です。終末の治療で、延命治療による胃ろうなど、本人が拒否し、その後意識不明になっても、家族の中の1人でも同意したら、病院や家族は治療を継続しなければなりません」

 しかし生前、「延命治療拒否」の遺言があると、病院の対応が大きく違ってくる。渋々ながら、家族も同意するかも知れない。

 ただし、玉置さんはこんな経験も持つ。

 生前、玉置さんに「もう延命治療はしないでくださいね」と話していたおばあちゃんが、病床で寝たきりになった。もはや意識もなく、心肺が動いているだけである。

 当然、病院は延命治療を図ったが、その後、ほどなく他界した。葬儀の後、家族がおばあちゃんの部屋を片付け、仏壇の引き出しを開けたところ、「延命治療は行わないでください」と書いた遺言状が見つかった。

 生前、おばあちゃんがひっそりと書き残していたものだ。

 玉置さんが言う。

「そうした遺言状はいつも携帯している財布やカバン、定期券などに大事に保管しておくといいですね」

玉置妙憂

玉置妙憂

東京都生まれ、53歳。専修大学法学部卒業後、法律事務所に勤務。長男の重い病気が動機になり30歳の時、看護師資格を取得。46歳の時に、がん闘病の主人を自宅でみとった後、高野山真言宗に得度した。臨床宗教師としても講演、執筆活動を行っている。「大慈学苑」主宰。

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