広がる治療の選択肢「潰瘍性大腸炎」で知っておくべきこと

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 下痢がよく起こる。ねばねばした粘液と血が混じった便も出る。腹痛やお腹の不快感がある――。これが、潰瘍性大腸炎だ。今、治療の選択肢がいくつもあるが、“古い治療”のままの患者も多い。潰瘍性大腸炎の治療に力を入れる大阪・インフュージョンクリニック院長の伊藤裕章医師に適切な診断と治療のポイントを聞いた。

 下痢がよく起こる病気といえば、過敏性腸症候群もある。これは、検査をしても胃腸に原因となる異常が見つからず、しかし下痢、または便秘、またはその両方を繰り返す。

「潰瘍性大腸炎との違いは、粘血便(粘液と血が混じった便)があるかどうか。過敏性腸症候群は下痢はあるが、粘血便はありません。粘血便が見られれば、潰瘍性大腸炎を考えます」(伊藤医師=以下同)

 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、潰瘍やびらんが連続的にできる原因不明の病気だ。患者数は増加しており、かつて「日本人に多い病気」といわれていた胃がんの2倍以上。患者数は、慢性腎不全や大腸がんに匹敵する(2014年10月時点)。

 ところが、患者数は増えていても、潰瘍性大腸炎を専門に診ている医師が増えているわけではない。つまり、下痢や粘血便から潰瘍性大腸炎と診断されても、“ベストの治療”を受けられているとは限らない。

「厚労省は、専門病院で潰瘍性大腸炎の診断がついたら、その後の治療はより身近な一般的な病院で受けるのが望ましいとしています。しかし、胃腸を診る消化器内科医でも、消化器がんや肝臓を専門にしていれば、潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患の適切な治療は難しいのです」

 その大きな理由が、潰瘍性大腸炎の治療の選択肢が増えたこと。20世紀はステロイドなどが中心で治療が遅々として進まなかった。21世紀に入りさまざまな薬が承認。特に2010年以降、炎症を強力に抑えられる生物学的製剤が次々と登場し、16年からは毎年、いくつもの薬が承認されている。今年も新たな薬が登場する予定だ。この複数ある薬の中から、患者にとってよりいいものを選んでいかねばならない。

■いまだに“古い治療”が一般的に行われている

 しかし、専門医以外が治療選択の参考にする治療方針では、いまだに「ステロイドが重要な役割を示す」としている。実際、ステロイドの全身投与はよく効く。アメリカのデータでは、ステロイド全身投与で30日後、8割に効果が出た。

「しかし1年かけてステロイドを減量した結果、半分はやめられませんでした。ステロイドは骨粗しょう症、肥満、血圧上昇、緑内障、ムーンフェースなど副作用が多い。ヨーロッパでは“維持療法のゴールはステロイドフリー寛解(炎症を抑え、潰瘍性大腸炎の症状がない)”としている。一方、日本では『(ステロイドを)一生飲むんですよ』と処方されている患者さんもいる」

 潰瘍性大腸炎の治療には薬の服用のほか、大腸を手術で全摘する方法もある。ただし伊藤医師は、75歳以上は命に関わる危険があること、術後10年経っても年齢によっては便失禁や夜間に便を漏らす率が高くなること、女性不妊のリスクが上昇することなどの理由から、勧めてはいない。

「生物学的製剤がいくつも出ている今、これらを使った内科的治療をしっかりとやり、手術を回避する必要があります」

 現在は、バイオシミラー(ジェネリックのような位置付けの薬)も登場し、薬価を抑えることも可能。簡単に口から飲め、注射薬と同等の効果を得られる薬も出ている。治療選択肢が広がったことの恩恵を十分に受けるべきなのだ。

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