看護師僧侶「死にゆく人の心構えと接し方」

「主人は今日、何を食べてくれるのかしら」

玉置妙憂さん
玉置妙憂さん(C)日刊ゲンダイ

 20年余りの看護師キャリアを持ち、僧侶でもある玉置妙憂さんの著書に「まずは、あなたのコップを満たしましょう」(飛鳥新社)がある。

「コップを満たす」とは、一言で説明すると、家族、特に両親や主人(あるいは妻)の介護者に向けた、いたわりのアドバイスである。

 高齢化社会が急速に進み、内閣府の発表では要介護認定者は633万人(2017年)。介護者は、ベストを尽くすのが当たり前だが、頑張り続けると、介護する本人が心身の病に倒れかねない。

 徘徊の監視や1日3度の食事介護。寝かせても、一人で寝返りが打てない。毎晩のように続く深夜の排泄処理……。

 それが1カ月、半年ならまだしも、1年あるいはその先何年続くか分からない。

 玉置さんは、ご主人を数年間介護していた夫人からの相談で、「あなたも少し休んでいいのよ、と助言をいたしました。ご主人を家において歌舞伎観劇に行ったところ、近所の噂になったそうです。でも、私はそれが正解ですとも言いました。ゆとりを持ちなさい。自分のコップを幸せの水で満たし、いっぱいになった幸せを、誰かに分け与えたらいいのです」。

 買い物や熟睡もできない1日24時間の介護で、介護者が山積する疲労や苦しみ。できることなら介護から距離を置きたいと思う。

「介護から逃げ出す少しのチャンスがあったら逃げましょう。苦しい状況を耐え忍ぶ必要なんてありません。それよりも、介護しながらあなたの心の幸せを満たすような努力や工夫もしてみてはどうでしょうか」

 そう語る玉置さん自身も、つらい介護経験を持っている。

 ご主人が原発「大腸がん」の術後、5年後に再発し、すい臓がん、胆管がんに転移した。カメラマンの主人は再発後のがん治療を放棄し、余命の3年を仕事にかけたのである。通院、入院を拒否し、自宅で仕事をこなす主人の介護に、玉置さんはやがて介護を楽しむようになった。

 毎日の食事では、玉置さんは主人に5種類ほどの食事を作ってテーブルに並べた。

 例えば、日本そば、うどん、カレー、チャーハン、野菜炒めなどである。

「さて、主人は今日、何を食べてくれるのかしら。ゲーム感覚で、私は多分この食事よと見当をつけていると、本当にその食事を選択してくれるの。“わあ、当たり”と声を出し、夫婦で笑い合うのです」

 長い介護期間に、こうした介護の楽しみ方も見つけだした。主人は自宅で現職の看護師夫人にみとられながら、62歳の生涯を終えている。

玉置妙憂

玉置妙憂

東京都生まれ、53歳。専修大学法学部卒業後、法律事務所に勤務。長男の重い病気が動機になり30歳の時、看護師資格を取得。46歳の時に、がん闘病の主人を自宅でみとった後、高野山真言宗に得度した。臨床宗教師としても講演、執筆活動を行っている。「大慈学苑」主宰。

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