人生100年時代を支える注目医療

救急車を呼ぶほどの重症熱中症 病院が行う4つの全身冷却法

ジェルパッド循環冷却法
ジェルパッド循環冷却法(提供写真)

 地球温暖化で夏場の「真夏日」(最高気温が30度以上)、「猛暑日」(同35度以上)、「熱帯夜」(最低気温が25度以上の夜)が増えている。熱中症による死亡者数が目立ったのは、2010年の約1700人、13年と15年の約1000人、昨年の約1500人。

 毎年、熱中症の怖さが叫ばれ、対策もとられているが被害者が減らない。なぜか。帝京大学医学部付属病院・高度救命救急センターの三宅康史センター長が言う。

「高齢化でがん患者が増えているのと同じで、熱中症による死亡者の8割以上は65歳以上の高齢者です。温暖化による気象の変化に加えて、社会的背景としても『高齢化』『孤独化』『貧困化』などのリスクファクターが増えているのです」

 東京都監察医務院の15年の集計でも、熱中症死亡のほとんどが屋内で起こっている非労作性熱中症。その65.6%が独居で、90.3%はクーラーを使用していなかったことが報告されている。

 高齢者の非労作性熱中症の場合、暑い日に急激に熱中症を起こすのではなく、連続する猛暑や熱帯夜によって徐々に脱水が進行、体力と食欲を失い、持病の悪化や感染症の併発も相まって発症するのが典型例だ。

 救急車を呼ぶケースは、基本的には意識障害やショック状態を起こした最も重いⅢ度の熱中症のとき。運ばれる医療機関には1次救急、2次救急、救命救急センターなどの3次救急とあるが、患者の状態によって救急隊員が判断する。では、重症熱中症の患者を対象とする3次救急では、どのような治療が行われるのか。

■患者を体ごと冷水に浸すことも

「重症熱中症では、迅速な冷却、確実な体温管理と臓器障害の治療予防を中心とした集中治療が必須となります。冷却法は一般的には『冷水浸漬』や『蒸散法』が行われていますが、近年では新しい冷却デバイスが開発され、保険適用にもなっています。当院では『ジェルパッド循環冷却法』や『血管内冷却法(サーモガード)』なども併用しています」

 冷水浸漬とは、水槽のような専用設備で患者を体ごと冷水に浸す方法。蒸散法は、霧吹きを用いたり、体に濡れたガーゼなどを覆ったりした上で、扇風機などで送風して冷却する。

 ただ、冷水浸漬は高齢者には負担が大きく、若年に比べて死亡率が高いと報告されている。また、輸液の点滴をしながら体を冷やすのだが、冷やしすぎてもいけないので、直腸温、膀胱温、食道温などで深部体温をモニタリングしながら行う。どちらも人手がかかる冷却法だ。

 一方、ジェルパッド循環冷却法は、体幹部と両大腿部に冷水が循環するジェルパッドを貼り付けるだけなので、患者の負担が少なく、安全性が高い。

「サーモガードは、2個のバルーンの付いたカテーテル(細い管)を鎖骨下や内頚、大腿などの太い静脈に挿入します。バルーン内に冷却した生理食塩水を循環させることで、血液自体を冷却する方法です。カテーテルから輸液の注入を同時に行うこともできます」

 どちらのデバイスも40度前後に上がった深部体温を5~6時間で37度に下げる。37度に近づくと冷やしすぎを防止するために、逆に温めて自動的に深部体温を一定に保つという。

 ただし、重症熱中症は死と隣り合わせの状態。心臓が熱にやられていると初日に亡くなることが多い。どれくらい長い時間、高体温が続いていたかで後遺症の程度が異なり、助かってもほとんどの患者に高次脳機能障害や小脳障害などが残るという。

 熱中症は防げる病気。予防が最も重要であることを肝に銘じておこう。

関連記事