Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

製薬会社は拒否 関西医大が行うすい臓がん治験の可能性

膵がん治験費をネットで調達、記者会見する関西医科大の里井壮平教授
膵がん治験費をネットで調達、記者会見する関西医科大の里井壮平教授(C)共同通信社

 新しい薬の効果や安全性を調べて、保険で利用できるようにするには、臨床試験が必要です。

 製薬会社が費用を負担して行うのが一般的ですが、関西医大の研究チームは医師主導で膵臓がんの新治療法の臨床試験を行うと報じられました。

 その費用は、インターネットで寄付を募るクラウドファンディングで集めるといいます。

 この仕組みは、極めて異例です。なぜそんなことになったかというと、協力を求めた製薬会社に断られたのが大きいでしょう。

 今回の治療法は、関西医大胆膵外科の里井壮平教授(写真)らのチームが研究しているもので、経口抗がん剤の「S―1」と、静脈注射で投与する抗がん剤「パクリタキセル」の併用療法です。膵臓がんが腹膜に転移して手術ができない患者180人を対象に、従来の治療法と比較します。

 これらの薬は、いずれも先発品としての特許が切れていて、ジェネリック医薬品(後発品)が発売されているのがミソ。先発薬を開発した製薬会社は、その薬の特許が切れて、後発品が出ると、強力に売ろうとすることはありません。

 営業マンに課されるノルマは先発品で、特許切れにはほとんどなし。特許切れで、利益が見込めないためです。

 製薬会社が治験への協力を断ったのは、そんな事情があると思います。そこでひねり出されたのが今回の仕組みというわけで、チームは価格が安い後発品を使って研究を続けるといいます。

 膵臓がんは難治がんで、中でも治験が対象とする腹膜転移があるケースは厄介です。それでも研究チームが、異例の枠組みをつくってまで力を入れるのは、一定の成果が出ているからだと思います。

 今回の治験は、第3相試験。2012~15年に行われた第2相試験は、同様の膵臓がん患者33人に行われていて、生存期間が延長。うち8人は腹膜転移が解消され、手術ができたと報告されています。

「S―1」と「パクリタキセル」の併用療法は、胃がんの腹膜転移にも行われていて、飛躍的な治療法とはいえませんが、期待は持っていいでしょう。

 今回の報道からいえるのは、製薬会社が力を入れる新薬が、必ずしも良い薬だとは限らないことです。私が使っている胃薬は、1世代前のものですが、現世代の薬より効いている気がします。これは一個人の体験談にすぎませんが、そういうことは往々にしてあるでしょう。

 資金が集まって、治験がうまくいけば、膵臓がんの腹膜転移で、この治療が保険で使えるようになります。しかし、資金不足だったり、治験で思うような結果が得られなかったりすれば、保険での利用はできません。それでも患者さんがこの治療を望むなら、自費になります。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大医学部医学科卒業。同院緩和ケア診療部長を兼務。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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