Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

“的中率”は90%超 がん血液検査の読み方と過剰診断リスク

命に影響を及ばさないがんも掘り起こす
命に影響を及ばさないがんも掘り起こす(C)PIXTA

 がんは早期発見が一番です。がんの専門医として講演で何度もお話ししてきたことですが、昨年自分で膀胱がんを見つけたことで、その思いがより強くなりました。その点でいうと、日経新聞が先日、「血液1滴で、さまざまながんを発見する検査キットが来年にも一部の人間ドックなどで実用化へ」と報じたことは、注目でしょう。

 血液検査のみなので、面倒な胃カメラも被曝リスクがあるX線も必要ありません。採尿や採便の手間も不要ですから、注目されるのはもっともでしょう。

 血液検査がターゲットにするのは、マイクロRNAです。DNAが情報を蓄積するのに対し、RNAは必要に応じて情報処理を担います。

 より小さいRNAがマイクロRNAで、体内には2000種類以上あります。

 それが、がんの発生初期から血液中を循環することが判明。2014年から国立がん研究センターを中心にプロジェクトが組まれ、研究されてきたのです。

 対象となるのは、胃がん、大腸がん、肺がん、食道がん、膵臓がん、肝がん、胆道がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、神経膠腫、肉腫の13種類。今年2月までに約5万3000検体がチェックされ、見通しの明るい結果が報告されています。

 例えば、乳がんは5つのマイクロRNAを組み合わせて調べたところ、感度は97%でした。感度は、Aと診断して実際にAだった人の割合。97%ということは、乳がんと診断した100人のうち、3人がハズレたということです。

 ほかのがんの感度はというと、卵巣がん99%、膵臓がん98%、大腸がん99%、膀胱がん97%、前立腺がん96%と軒並み好結果です。

 しかし、問題がないわけではありません。過剰診断です。例えば、女性に多い甲状腺がんと男性の前立腺がんは、命に影響を及ぼさないタイプもあります。そういうがんを掘り起こして、「がんです」と突きつけられると、手術が不要なのに手術される患者が出てきます。韓国では、甲状腺がん検診が行われたことで、過剰診療が社会問題になりました。つまり、がんの血液検査を受けた人は、検査結果との向き合い方、読み解き方がとても重要なのです。

 では、どう読むか。まず甲状腺と前立腺は、血液検査を受けない方がいい。過剰診療の可能性が捨てきれません。

 そのほかでいうと、膵臓がんと胆道がんは発見しにくい上、有効な検診法が定まっていないので、血液検査が有望でしょう。高リスク判定なら、超音波検査などの精密検査を受けるといい。肺で高リスクならCT、食道なら内視鏡といった具合です。

 血液検査の結果で、すぐに治療ということではなく、精密検査を受ける前の前段階という位置づけでいいでしょう。1回の血液検査がセーフだから、その後はノーチェックというのも考えもの。血液検査がどんなに効果的であっても、定期的ながん検診を受けることが重要なのは、今後も変わりません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事