進化する糖尿病治療法

基準値を超えずにギリギリセーフが長年続くと危険なワケ

生活習慣改善が大事

 病気の中には、「これまで何ともなかったのに、急に症状が出てきたら要注意」というものも少なくありません。だから、血糖値の場合も後者(この1~2年で上昇)の方が問題だろうと考える人がいるかもしれません。しかし、実は、「糖尿病でない」状態にギリギリとどまっている期間が長い人ほど、全身の血管に与えるダメージが大きいのです。

 崖っぷちでギリギリ踏ん張っている人は、落ちてしまうと戻ってこられない。ゴムをずっと引っ張っていると、手を離してもダランと伸び切った状態のままになりますが、そのイメージです。

 実際、血糖値が境界型の人は、正常型の2.2倍心臓や血管の病気になりやすいといわれているのです。何度かこの欄で「負の遺産」についてお話ししました。血管などに負担をかけている年数が長くなると、それこそ苦労して規則正しい生活に切り替えても、負の遺産が少ない人よりも、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高くなるのです。 一方、ゴムをグンと思いっ切り引っ張って手を離すと、ゴムはすぐに元に戻ります。1~2年で上がった血糖値は、このゴムと同じ。

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坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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