精神科医が語る「自殺者が少ない地域」7カ所の共通点

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 昨年の自殺者は2万598人で9年連続減少。しかし、19歳以下の自殺者は増加しているという。春先から初夏にかけてが「自殺の多い時期」という報告もあるが、自殺回避につながるヒントはないものか? 「その島のひとたちは、ひとの話をきかない――精神科医、『自殺希少地域』を行く――」の著書がある精神科医の森川すいめい医師に話を聞いた。

 森川医師はこれまで、徳島県の旧海部町(現・海陽町)、青森県の平舘村(現・外ケ浜町)と風間浦村、伊豆諸島の神津島、新潟県の粟島、北海道の白滝村(現・遠軽町)、広島県の下蒲刈島など7カ所の“自殺希少地域”を訪問。それぞれ1週間ほど宿泊し、地域の人たちと交流してきた。自殺希少地域とは「自殺で亡くなる人が少ない地域」であり、中には再度訪れたところもある。その経験から、森川医師は自殺希少地域に共通点があることを肌で感じたという。

「自殺希少地域というと、当初は“人と人が一生懸命に助け合っている地域”という印象がありましたが、実際に訪れると、そういうわけではない。まさに『人間関係は、疎で多』でした」

 この「人間関係は、疎で多」とは、自殺希少地域の研究者である岡檀氏の言葉だ。森川医師は、岡氏の学会発表がきっかけで、自殺希少地域を訪れるようになった。岡氏の調査では、自殺希少地域では隣近所との付き合いを「緊密」と答える人は少なく、一方、自殺で亡くなる人の多い地域では「緊密」と答える人も多く4割だった。

「自殺希少地域では、緊密でない代わりに『常に相手は自分の理解を超えている存在』という考えが大前提にある。相手は自分と全く違う存在。だから“○○○なんだ”と決めつけずに、対話をする。7カ所の自殺希少地域で住民の方と交流する中で、それが強く感じた共通点でした」

■ひきこもりの人も孤立はせず

 これは、親子関係や所属するコミュニティーでも応用できる考え方だと、森川医師は指摘する。それぞれが「正解は一つではない」と捉え、相手の意見に耳を傾ける。

「自殺希少地域でもひきこもりの人はいましたが、孤立はしていなかった。周囲がその人となりを把握し、家にこもりたい気持ちを理解している。近所同士対立している人もいました。悪口を言いもするのですが、周囲はそれはそれとして話を聞き、派閥をつくるでも、村八分にするでもない」

 ある自殺希少地域での特別養護老人ホームでは約40人の入所者がいたが、抗精神病薬を服用している人はゼロで、睡眠薬は2、3人。これは珍しいケースであり、森川医師は「最新の介護手法を用いた結果か」と考えていたという。

「しかし訪問すると、そうではない。ただ、一人が歌いだすとほかの入所者も歌いだす。独り言もとがめない。怒ったり、薬が必要なのでは、と考えるところも多いのですが……。あの人はあの人だといった理解が入所者やスタッフにある」

 森川医師はクリニックで治療を行う際、うつ病や統合失調症といった診断名はいったん横に置き、「何が今つらいのか」「ここに至るまでどういう人生を送ってきたのか」「何を話したいと思っていたのか」を聞く。重要視するのは、やはり対話だ。うつ病になった直接的な原因を探り、解決したとしても、問題点が減っただけで、自殺防止にはつながらないからだ。

 森川医師の著書のタイトル「ひとの話をきかない」は「耳を貸さない」ではなく、対話を通し、ひとつの意見にまとめず個々を認めていこうということ。自殺希少地域と同じ環境をすぐにつくり出すのは困難だが、自分がまず周囲とのかかわり方を変えようと努力することが、結果的には、自殺に向かおうとする人を減らせるかもしれない。

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