後悔しない認知症

いい状態と悪い状態を繰り返すレビー小体型認知症の接し方

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 子どもにとって大切なことは、「親が本当に認知症なのか」「どんなタイプの認知症なのか」「正しい対応法は何なのか」をきちんと理解することだ。そのためには、何度も述べるが臨床経験豊富な専門医の診断を受けさせることだ。

 前回、認知症の中で比率が最も高いアルツハイマー型認知症について述べた。

 このアルツハイマー型認知症に次いで多いのが「レビー小体型認知症」だ。レビー小体とは脳の神経細胞にできるタンパク質なのだが、これが脳の大脳皮質や脳幹に蓄積、神経細胞を破壊し、神経伝達を阻害することによって認知症の症状が出る。これがレビー小体型認知症である。アルツハイマー型認知症と併発するケースもある。

 このレビー小体型認知症の場合、初期段階の特徴として挙げられるのは、うつ症状や幻視である。幻視の場合、例えば、「天井に虫が止まっている」「(死んだ)夫が笑いかけてきた」と、そこには存在しないものが見えてくる。それによって虫を殺そうとしたり、幻視で見えている亡夫に話しかけたりすることもある。

 幻聴を伴うこともある。また、誤認や妄想という症状が生じることもある。自分が実際とはかけ離れた年齢であると思い込んだり、同居している家族を他人だと言い張ったり、事実と異なる認識状態に陥る。

 さらに、手足の震え、筋肉のこわばり、体のバランス感覚の欠落などの症状が見られることもある。これはパーキンソン病の症状と似ているため、誤診を招きやすい。

 このレビー小体型認知症は、症状が徐々に進んでいくアルツハイマー型認知症とは違い、「いい状態のときと悪い状態のときを繰り返して進行する」という特徴がある。幻視、誤認、妄想の症状は常に生じるわけではなく、断続的に表れる。そのため、周りの家族はいい状態の親を基準に対応してしまいがちになる。その結果、「知らない人がいる」と訴えたり、動作が緩慢になったりする親に対して「誰もいないじゃないか」あるいは「グズグズしないで」などとひどく感情的に対応してしまったりする。これで、親の症状が改善することはない。

 こんなときは、まず親の訴えや主張を頭ごなしに否定するのではなく、まず話を聞いてあげることが大切だ。聞いてあげた上で「去年亡くなったね」などと諭すように伝えることだ。

 動作が緩慢であっても、せかすのではなく、親の動きに合わせてあげること。せかすことで転倒したり、ケガをすれば、さらに親の行動が制限され、結果として脳に悪影響を与えることになる。

 いずれにせよ、子どもはこのレビー小体型認知症の特性をきちんと理解して親と接することが大切だ。

 レビー小体型認知症に限らず、ほかの認知症を含めて老化現象が顕著になった親を持つ子どもの多くは「年だから」と諦めてしまいがちだ。だが、子どものそうしたスタンスは、認知症の症状をさらに進めてしまうことになりかねない。

 現代の医学では認知症の進行を完全に止めること、治すことはできない。だが、これまで述べてきたように、進行を遅らせることは可能だ。進行を抑える効果が認められている薬もある。

 冒頭で述べたように高齢の親に的確な診断を受けさせた上で、認知症の親に正面から向き合いつつ、多少なりとも効果が認められている治療法を試みた上で、親がまだできることを維持することを心がけるべきだ。

 日常の積み重ねが生活の質を低下させないことにつながるのである。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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