上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

コーヒーは年齢によってマイナス作用が強く表れるケースも

順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授
順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 コーヒーが健康に及ぼす影響についての研究は世界中でたくさん報告されています。最近では、南オーストラリア大学の研究チームが「コーヒーの過剰摂取は心血管疾患のリスクを上昇させる」と発表しました。

 37歳から73歳までの34万7000人を対象に、カフェインの代謝能力に関係する「CYP1A2遺伝子」の有無を含めてコーヒー摂取量と心血管疾患のリスクとの関連を分析したところ、1日に6杯以上のコーヒーを摂取する人は、1~2杯しか摂取しない人に比べて心血管疾患のリスクが22%上昇することがわかりました。また、コーヒーをまったく摂取しない人も心血管疾患のリスクが約10%アップしています。これらの研究結果を参考にすると、心臓にとっては1日1~2杯のコーヒーを飲むことが望ましいということになります。

 この研究ではコーヒー1杯のカフェイン含有量は70ミリグラムで換算しています。レギュラーコーヒーやインスタントコーヒーは100ミリリットル当たり約60ミリグラムのカフェインが含まれていて、一般的なレギュラーカップ1杯の容量は150ミリリットル前後ですから、やはり5杯を超えると過剰摂取といえそうです。

 コーヒーの過剰摂取が心臓に悪影響を与える大きな要因はカフェインです。カフェインは体内でコルチゾールというホルモンの分泌を増加させる働きがあり、コルチゾールは血圧を上昇させたり、心拍数を増やす作用があります。そのため、心臓に過剰に負担をかけたり、不整脈を起こしやすくなるのです。

 一方で、コーヒーはポリフェノール系食品として抗炎症化合物や抗酸化物質が多く含まれています。適度な量のコーヒーが心血管疾患のリスクを減らすのはそうした生理活性物質の作用であると考えられます。つまり、コーヒーには心臓にとってプラスとマイナス、両方の影響を与える成分が含まれているということで、過剰摂取するとマイナスの影響が出やすくなってしまうのです。

注意したいのは、過剰といえるほどの量を摂取していなくても、マイナスの作用が強く出てしまうケースがあることです。たとえば、試験勉強をする際、前日の夜にコーヒーをたくさん飲んで目を覚まし、徹夜して試験に臨もうとしたところ、当日はトイレが近くて試験どころではなかった……という人がいます。カフェインの覚醒作用を利用したまではよかったのですが、翌日になって利尿作用がマイナスに働いてしまったわけです。カフェインの作用は、環境や体調によってマイナス面が強く出てしまう場合があるうえ、時間がずれて表れるケースもあるのです。

 年齢によっても、マイナスが大きくなってしまう場合があります。とくに高齢者では、70代の3%、80代の4%が心房細動を抱えていて、ベースに頻脈がある人はより発症しやすくなります。カフェインの摂取量が多いと頻脈を招き、それだけで心房細動を発症したり、心原性脳梗塞を起こす危険も十分に考えられます。年を取ったらコーヒーの飲み方に気を付けましょう。

■カフェインはコーヒー以外にもさまざまな飲食物に含まれている

 また、カフェインはコーヒー以外にも含まれていて、清涼飲料水、緑茶、ウーロン茶、栄養ドリンクといった日常でよく飲食する多くのものに入っています。風邪薬などの市販薬にもエフェドリンというカフェインの“親戚”といえる成分が含まれているので注意が必要です。濃いめのコーヒーのほかに、こうした飲食物や薬を飲むと、気づかないうちに二重でカフェインを摂取しているケースもありえます。

 とりわけ、基礎疾患に頻脈がある人、心房細動を抱えている人、甲状腺機能亢進症の人、過去に何らかの心血管疾患を患っている人は、カフェインの過剰摂取は避けるべきです。自分が日頃よく口にする飲食物や薬に含まれている成分をチェックしておくことをおすすめします。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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