アフリカと欧米でHIVの新規感染者が激減した2つの理由

諸外国では自分で検査できるキットなど、いろんな検査オプションがある
諸外国では自分で検査できるキットなど、いろんな検査オプションがある(C)DPA/共同通信イメージズ

 HIVの新薬が4月に発売された。国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター長の岡慎一医師に最新の状況を聞いた。

 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染すると免疫力が徐々に低下し、数年から10年ほどでカンジダ症、進行性多巣性白質脳症、原発性脳リンパ腫、HIV脳症などを発症する。指定された23の病気のいずれかを発症した段階を「エイズ(AIDS)発症」という。

「重要なのは、エイズ発症前に治療を開始すること。それによって、普通の人とまったく同じ生活を送ることができます」

 現在、一般的に使われている薬では服用後3~6カ月で血液中のHIV量が「検出限界以下」になる。こうなれば、コンドームなしでセックスしてもパートナーにほぼ感染しない。母子感染の確率は1%以下といわれ、妊娠・出産も可能だ。

「耐性ウイルスもできません。1日1回の服用でよく、かつてのように1回飲み忘れたからといっても問題ない。さらに1カ月に1回、2カ月に1回、という注射薬も開発が進んでいます」

 一方、エイズ発症後は同じようにいかない。たとえば進行性多巣性白質脳症を発症すれば、認知症が出て寝たきりになる。悪性リンパ腫であれば抗がん剤が効かず、死に至ることもある。

「ところが日本では、30%の人がエイズ発症後に感染が判明。検査で見つかる人より発症してから見つかる人が多い地域もあります。この10年、日本でのエイズをめぐる状況は変わっておらず、HIV、エイズともに新規患者数は同じ数字で推移しています」

 新規患者数を減少させる方法は明らか。まず、HIV感染者を早期発見し、全員治療する。ところがこれが日本ではハードルが高い。

 保健所に行かないと匿名無料検査ができないため、「行く時間がない(保健所は土日が休み)」「人に知られると困る(知人が保健所に勤めている可能性がある)」などの理由から、気軽に検査を受けられない。諸外国では、唾液にて自分で検査できるキットや郵送すればOKの方法など、いろいろな検査オプションがあるが、日本では認可されていない。

 次に、感染リスクが高い人の予防薬(PrEP)の服用だ。WHOも強く推奨しており、世界40カ国以上で承認されているが、日本では未承認。日本で予防薬を自費で買えば、1錠3800円もするため、インターネットでジェネリック薬を個人輸入するしか現実味はない。しかし、未承認ゆえに医師が勧められず、予防薬が有効な人に情報が届きづらいのが現状である。

「深刻なエイズ問題を抱えていたアフリカの多くの国では、検査と治療の普及により新規感染者がピーク時に比べ半減。予防薬服用が進んでいるアメリカやヨーロッパ、オーストラリアなどの一部地域では、新規感染者が激減しています」

■「コンドームで予防を」では不十分

 日本でのエイズ対策は、いまだに「保健所で検査を」「セックスではコンドームを」。これだけでは新規感染者減少につながらないことは、数字が示している。

「コンドームは理論的には予防法として正しいですが、相手に依存しています。セックスの相手が持っていなかったり、外れたり破れたりするリスクもある。予防薬の効果にはかなり劣る」

 国の方針に従っていたら、地獄を見ることになるかもしれない。感染リスクが高い人は、とにかく自分ができる方法で検査を受けるべきだ。認可されていないが、日本でも唾液の簡易検査キットが複数のメーカーから発売されている。さらに、不特定の人と性交渉を持つ以上、自分で主体的に自分の身を守る予防薬の使用の検討もすべきだろう。

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