味噌は日本の食文化を代表する発酵調味料です。「さしすせそ」の最後ですから、調理の最後に加えます。特に麹味噌は風味が飛びやすく、長く煮るとうま味成分が減ってしまうからです。煮返した味噌汁がいい例です。そこへいくと豆味噌は軽く煮立てることで、独特の酸味や渋味が一層、引き立ちます。麹味噌と豆味噌は調理法によって使い分けます。味噌は造り手によって塩分濃度が異なるため、味見をしながら、最初は少なめに加えるのがよいでしょう。
ナトリウムの除去を促進するマグネシウムやカリウムは高血圧、大豆レシチンは動脈硬化の予防につながります。熟成の過程で生じるメラノイジンは食後の血糖値の上昇を抑えるため糖尿病防止に役立ちます。日本人が昔から味噌を重宝したのは、おいしいだけでなく、健康上のさまざまな効能があるからです。
今回はさわらと合わせました。さわらは青魚のため、良質なタンパク質、ビタミンD、ビタミンB12に加えて、脳の老化を防ぐDHA(ドコサヘキサエン酸)や血管の老化を防止するEPA(エイコサペンタエン酸)が含まれています。味噌と合わせる卵黄には脳を活性化させるコリンがかなり豊富なので、さわらのDHAとともに脳の老化防止作用があります。
■さわらの卵黄焼き
《材料》
◎さわら 2切れ
◎塩 小さじ2分の1
◎酒 大さじ4
◎オリーブオイル 大さじ2
◎卵黄 1個分
◎麹味噌 大さじ1
《作り方》
さわらの切り身を塩、酒(大さじ2)、オリーブオイルと合わせて15分おく。別に卵黄、麹味噌、酒(大さじ2)をよく混ぜておく。さわらを魚焼きグリル、またはオーブンのグリラーで中火で下焼きする。半分ぐらいまで火を通したら、一度取り出す。さわらの切り身の上面に卵黄と麹味噌と酒を合わせたものをスプーンなどで2~3回塗り、再度焼く。途中、卵黄味噌が流れ落ちてしまったり、少なかったりした時は重ね塗りする。
■ごぼうの煮物
新ごぼうを皮ごとよく洗い、長さ6センチに切りそろえて縦半分に。スがある場合は先の細いスプーンなどで除き、短冊切りにする。土鍋に水と煮込み料理に適した豆味噌、酒、みりんをほんの少し加え、汁気がなくなるまで煮る。白すりごまをあしらって。
■トマトを特製ドレッシングで
おいしいトマトの皮をむき、芯を除き、乱切りに。ごま油大さじ3、しょうがのみじん切り小さじ1、麹味噌大さじ2分の1、米酢大さじ2、白こしょう少々と合わせ、トマトにかけ、大葉をちぎってあしらい、風味を立てる。
▽まつだ・みちこ 女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事 」「調味料の効能と料理法」など。
【さわらの卵黄焼き】動脈硬化に糖尿病予防…昔から重宝された理由
私は米国で長らく研究生活をしていた。実験に忙しいので、どうしても食事はアメリカンなファストフードになってしまう。ピザ、ハンバーガー、フライドチキン……これにコカ・コーラが恐ろしいまでに合う。肥満になるのも当たり前。
しかし、日本人である私はときどきどうしても恋しくなる味があった。それは味噌汁や味噌ラーメンの味。味覚とは記憶。子ども時代に慣れ親しんだ味がおいしい味である。
ことほどさように味噌は日本人の食文化に深く根ざした画期的な発酵食品である。大豆、米、麦などを原料に麹の力を借りて発酵させる。発酵とはデンプンやタンパク質の分解作用であり、これによって糖質の甘味やアミノ酸のうま味が花開く。また、麹菌がつくる脂肪酸やイソフラボン化合物は制がん作用がある。さらに味噌を特徴づけるあの褐色はメイラード反応(糖とアミノ酸の結合。カステラの焦げ目と同じ)によるもので、反応物には抗酸化作用がある。つまり、ゆっくり熟成される味噌は究極の健康スローフードなのだ。
唯一の考慮点は、味噌にたっぷり塩分が使われていること。味噌味にインパクトを求めすぎると塩分過多になる。ただし、本メニューのように、そこへ別の形でうま味が加わると、味噌を少なめにしても、おいしさは変わらない。今では、ミソスープやミソラーメンは米国でも大ブーム。
▽ふくおか・しんいち 1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。