Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

高校生が「哲学外来」主催報道 がんのつらさは話して楽に

抱え込まずほかの人に話せば心が軽くなる(写真はイメージ)
抱え込まずほかの人に話せば心が軽くなる(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 2人に1人は、がんになります。恐らく、職場や家庭にがん患者がいるでしょう。もちろん、それぞれにつらさはあると思いますが、どんなふうに生活されているでしょうか。

 先日、中京テレビとヤフーの共同企画による記事で、脳腫瘍を経験した男子高校生が紹介されていました。小2で発症、治療したものの、中2で再発し、半年ほど入院したそうで、今も左半身にマヒが残るといいます。明るくオープンで、「暗い話ではなく、笑顔で語りたい」と自らの闘病体験を語るのです。

 そう、記事が伝えようとしているのは、その高校生が主宰する「がん哲学外来」の活動です。がん哲学外来は、順天堂大の樋野興夫教授が10年ほど前に始めたもので、患者や家族が悩みを語り合うことで、精神的なつらさを和らげようとするのが狙いです。大人の活動は広がりつつあります。

「一人で抱え込むのではなく、ほかの人に話せば心がすごく軽くなって、少しでも明るくなれる」

 全くその通りだと思います。

 がんになると、それに伴う症状のほか、精神的な苦痛も見逃せません。

 がんは早期なら治る病気ですが、今なお「がん=不治の病」というイメージは根強く、精神的なストレスをずしりと背負い込む人は珍しくありません。

 がんでない人と比べると、うつ病の発症率は2倍以上と報告されています。研究によってバラつきがあり、20~40%はうつ病を合併するといわれるのです。

 がん患者のうち、3割は64歳以下の現役世代。学校生活や仕事との両立が大切でしょう。そういう方々がうつ病で塞ぎ込んでしまうと、せっかくの治療のチャンスをふいにしてしまう恐れもあるでしょう。

 同じ境遇の人たちが集まって、そういうつらい気持ちを一人一人、口から吐き出すことで、心を軽くしようとするのが、がん哲学外来です。一見すると、難しそうな名称ですが、あくまでも気持ちを軽くするための話し合い。

 がんでなくても、人間関係や仕事などの悩みを友人や同僚、先輩に話すことで、ふっと気持ちが軽くなることはあるでしょう。それと同じようなイメージで、お茶を飲みながら毎日移り変わる悩みを相談するのが、がん哲学外来です。

 ネットを検索すれば分かる通り、全国にたくさんあります。その扉を開けるのが緊張するという人は、職場や親戚のがんの先輩に相談してみるのもいいでしょう。とにかく話すこと、いつも通りの生活を心掛けることが一番です。

 こんなことを言う私も膀胱がんになったときは「なぜ私が?」とがんの事実を否認したい気持ちでいっぱいでした。そこから比較的早く抜け出せたのは、周りに現実を話して、早期の職場復帰を目指したからです。

 がんの皆さん、つらさはため込むのではなく、なるべく吐き出してください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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