正社員で働く発達障害の人々

「変わっている」と言われ続けた理由を病名がついて納得

一色宏治さん
一色宏治さん(提供写真)

「サラリーマンとしてひとつの会社に20年近く勤め、600万円以上の年収をもらっている。そんな私が発達障害だと言うと、『考え過ぎなのでは』『だれでも得意不得意はあるのだから、大げさに捉えることはないですよ』などと言いたくなる人もいるようです。でも、私は、発達障害と学力や収入は無関係だと思っているので、学歴や収入が高いから発達障害ではないということはない。むしろ『過集中』を持っていると勉強が得意になることもありますし、発達障害者は全国民の5%はいるといわれていますから、発達障害が特別なことだとも思っておりません。ただ、発達障害がどういうものか知ってほしいと思って、この取材を受けることにしたんです」

 そう話すのは、一色宏治さん(41歳)。都内のIT企業でシステムエンジニアを務める、第一線のサラリーマン。正社員だ。

 旧帝大の大学院を出て就職した会社にいまも勤務している一色さんだが、長年、生きづらさや仕事のしづらさを感じてきたという。子どものころから、家族や周囲から「変わっている」と言われ続け、どうして自分は他人と違うのか理解できなかった。しかし、発達障害という概念を知ることで、「長年の違和感に説明がついた気がした」と言う。

「大学院の課題や、就職してからも仕事が忙しくなると、過集中の状態になることで乗り切ってきましたが、これを1週間くらい続けると、夜中に頭の中でいろいろな考えが回って、眠れなくなる。一時的に集中力は上がるけど、基本能力は一切上がっていないので、長期的なパフォーマンスは向上していないし、しまいには疲れて反動で虚脱したようになって、うつ状態に陥ってしまう。そんな状態が続いて、5、6年はなんとか会社にしがみついている、という時期もありました」

 過集中とは、発達障害の人によくある状態で、過度に集中しすぎること。短期的には仕事や勉強の成績が上がることもあるが、結果的には、日常生活のバランスが崩れたり、心身に悪影響を及ぼすことも多い。

「私は発達障害という概念を知るまでは、自分のなかの『わけの分からないもの』と闘っていたように思います。『頭の中がわさわさする』『理由は分からないけど納得できない』といった症状がありましたが、発達障害というフィルターを通したとき、初めてその意味が分かったんです。『頭の中がわさわさする』のはADHDの特性で、『理由は分からないけど納得できない』というのは、ASDの特性だったのです」

 ADHDとは、注意欠如・多動性障害のことで、衝動的な言動や不注意が目立つなどの症状がある。また、ASDとは、自閉症スペクトラムのことで、コミュニケーションなどに問題が生じる。いずれも、発達障害の一種だ。

 一色さんは、現在の会社に入社9年目でプロジェクトリーダーを任されたが、それが負担となり、10年目でダウン。心療内科を紹介された。そのときに、正式な発達障害とは診断されなかったものの、ADHDであり、かつASDのグレーゾーンだということが判明した。グレーゾーンとは、発達障害と定型発達(健常者)の中間にあるということである。=つづく

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