まったく同じことなのにできるときとできないときがある――認知症の親に対して子どもがそんな戸惑いを抱くことは多い。たとえば午前中にはひとりですんなり着替えができたのに、午後になるとまったくできなくなったり、数時間前までスラスラと口にしていた人の名前や場所の名前を完全に忘れてしまったりする。
こうした「まだら認知症」は認知症の種類を示すものではないが、脳血管性認知症と呼ばれるタイプの認知症によく見られる症状だ。この脳血管性認知症は、これまで述べてきたアルツハイマー型やレビー小体型の認知症と違い、脳梗塞、脳出血によって脳血管周辺の神経細胞がダメージを受けて発症する。この場合、脳の中にダメージを受けた箇所とそうでない場所があることや、刻々と変化する血流のメカニズムもあって、認知症状にバラツキが生じることになる。時間によって、同じことができたりできなかったりするのはそのためであり、これを繰り返すことになる。
後悔しない認知症