後悔しない認知症

できる・できないを繰り返す「まだら認知症」の対応方法

写真はイメージ
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 まったく同じことなのにできるときとできないときがある――認知症の親に対して子どもがそんな戸惑いを抱くことは多い。たとえば午前中にはひとりですんなり着替えができたのに、午後になるとまったくできなくなったり、数時間前までスラスラと口にしていた人の名前や場所の名前を完全に忘れてしまったりする。

 こうした「まだら認知症」は認知症の種類を示すものではないが、脳血管性認知症と呼ばれるタイプの認知症によく見られる症状だ。この脳血管性認知症は、これまで述べてきたアルツハイマー型やレビー小体型の認知症と違い、脳梗塞、脳出血によって脳血管周辺の神経細胞がダメージを受けて発症する。この場合、脳の中にダメージを受けた箇所とそうでない場所があることや、刻々と変化する血流のメカニズムもあって、認知症状にバラツキが生じることになる。時間によって、同じことができたりできなかったりするのはそのためであり、これを繰り返すことになる。

 この症状の主な原因となる脳内の血管の梗塞や出血は、表面的にはすぐに日常生活の阻害要因となるとはかぎらない。実際には脳内で小さな梗塞や出血が繰り返し起こっていても、顕著な症状が表れないことが少なくない。だが小さな梗塞や出血が続いたり、年齢を重ねることで次第に症状が表れてくる。だから、まだら認知症が認められる場合には、臨床経験豊富な専門医の診断を仰ぎ、脳血管性認知症であるかどうかを調べてもらうことが大事だ。脳血管性認知症であれば、生きている神経細胞が元気なので多少のリハビリも可能だし、さらなる血管障害の発生を予防するための薬を服用したりすることで、症状の進行を抑えることも可能だ。また遠因としては、生活習慣病も考えられるから、その面での改善が症状の進行を抑える可能性もある。

 ただし高齢者の場合は、アルツハイマー型認知症を併発しているケースが少なくないので、薬の効果を含めた症状の改善は限定的になると考えなければならない。

 実際のところ、無症状の脳梗塞、脳出血は高齢者にかぎったものではなく、40、50代でもかなり多く見られることで、子ども世代も他人事ではないと考えておいたほうがいい。いずれにせよ、脳血管性認知症においては同じことでも「できるとき」と「できないとき」が表と裏の関係のように生じるため、まわりの人間は戸惑う。そのため「怠けているのでは?」「わざとやっているのでは?」「困らせようとしているのでは?」などと疑い、「やる気の問題だ」などと感情的な言動で接してしまうことが少なくない。子どもは「できるときとできないときの大きな波」は脳血管の血流障害によって引き起こされていることをきちんと理解して対応すべきだ。できないときの親を基準にして対応し、できるときは喜び、できないときは介助するスタンスが必要だ。

 もちろん、さらに重大な脳梗塞や脳出血が起きないように親の生活習慣を見直したり、十分な水分補給を心掛けるなど、改善の余地があれば実行する。そのうえで、コミュニケーションの機会を増やすよう心掛けることだ。歩行に問題がなければ、散歩などの軽い運動で体を動かしたり、太陽の光を浴びたりすることも症状の進行を遅らせる。認知症全般に言えることだが、「できない」とあきらめるのではなく、「まだできること=残存能力」を維持するように心掛けよう。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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