上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

風邪薬が心臓に与える悪影響を抑えるには生活習慣が重要

順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授
順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 梅雨で不安定な天気が続き、いわゆる「夏風邪」がはやり始めているようです。風邪かな? というとき、まずは市販の風邪薬=総合感冒薬を飲んで様子を見る人がほとんどでしょう。

 しかし、心臓にトラブルを抱えていたり、血圧が高めの人は注意が必要です。いわゆる慎重投与の対象になっていると、副作用から心臓疾患を発症したり、悪化する危険があるのです。米国の心臓領域の学会は、「市販の風邪薬の中には心血管に悪影響を及ぼすものもあることを理解し、慎重に判断してから使用するように」と注意喚起しているほどです。

 風邪薬の多くに含まれている成分の中で、心臓や血管に大きな影響を与える代表的なものが「エフェドリン」です。交感神経を興奮させることで起こる血管収縮作用により、鼻粘膜の腫れを抑えて鼻づまりを緩和させたり、気管支を拡張させて咳を止めます。

 しかし、血管が収縮すると、心臓が全身に血液を送り出すためにはそれだけ大きな力が必要になり、心臓に負荷がかかります。心臓疾患や高血圧を抱えている人はもちろん、それまで問題なかった人も風邪薬に入っているエフェドリンの影響がきっかけで心臓疾患を発症するケースもあるので注意してください。

 また、解熱鎮痛作用がある「非ステロイド系抗炎症薬」(NSAIDs)も心臓や血管に関係します。体内で炎症を引き起こすプロスタグランジンを作る酵素を阻害し、炎症や痛みを抑えて熱を下げる薬ですが、プロスタグランジン生成が抑制されると血圧が上昇します。

 NSAIDsが血圧に及ぼす影響を検討した報告によれば、平均5㎜Hg程度の血圧上昇を招くとされています。血圧が正常な高齢者がNSAIDsの服用を開始した直後から血圧が高血圧の範囲まで上昇し、服用を中断すると血圧が正常化したという報告もあります。NSAIDsが含まれている風邪薬の服用は、心臓疾患や高血圧がある人は病状を悪化させる可能性があるのです。

■薬のプラス効果を利用しつつマイナス作用を表れにくくする

 一般的に、風邪薬はどこかしら体調が悪いときに飲むケースがほとんどでしょう。体が弱っているときは、余計にこうした心臓や血管に影響する成分の作用が強く表れ、心臓にトラブルを引き起こすリスクが高まります。

 だからといって、風邪薬を一切飲まないようにするというのは非常に極端な考え方で、副作用を怖がるあまり薬のプラス効果まで捨ててしまうのは賢い選択とはいえません。つまり、風邪薬のプラス効果を最大限に利用しつつ、マイナス効果が表れにくくすればいいのです。そのためには、日頃の健康管理が大切になります。

 われわれは日常生活の中でさまざまなウイルスと接触しています。風邪をひくのは、体力の低下や睡眠不足などで抵抗力が落ちているタイミングでウイルスに感染するからです。そして風邪をひいてしまった場合、基礎的な体力がなければ長引いたり重症化するリスクが高くなります。そういう人は、風邪薬を飲んだときに副作用のマイナス効果が表れやすくなるのです。

 逆に基礎的な体力を維持している人はそもそも風邪をひきにくいうえ、感染したとしても重症化せずに乗り切ることができます。風邪薬を服用してもマイナス効果を排除してプラス効果を活用できるのです。

 インドなど衛生環境が整っていない諸外国を訪れると、すぐにお腹を壊して下痢になってしまう人と、まったく平気な人がいます。両者の違いは、腸内細菌のバランスにあるといわれています。日頃から腸内環境が良い人は、衛生環境が悪くても乗り切れるということです。

 つまり、日常的に規則正しい生活リズムやバランスの良い食生活といった生活習慣を心がけたり、腸内環境を整えておけば、仮に風邪をひいて薬を飲んだとしても、マイナスの作用が表れにくくなります。

 風邪薬だけでなく、どんな薬にも副作用はあります。薬のマイナス作用を表に出さず、プラス効果の恩恵を受けられるかどうかは、日頃の健康管理にかかっているのです。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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