腎臓は人体の要…熱中症による腎機能低下には要注意

なかなか自覚症状は出てこない
なかなか自覚症状は出てこない(C)日刊ゲンダイ

 熱中症が気になる季節がやってきた。熱中症といえば脱水や意識障害といった症状ばかりに注意が向かいがちだが、その陰で血管や肝臓など多くの臓器が多大なダメージを受けていることを忘れてはいけない。とくに気になるのは腎臓だ。人体の要といわれるほど重要な働きをしていながら、成人の8人に1人が慢性腎臓病(CKD)を患っているといわれるからだ。その中には治療していない人も多い。熱中症は腎臓にどんなダメージを与えるのか? 腎臓専門医で「松尾内科クリニック」(東京・桜新町)の松尾孝俊院長に聞いた。

 腎臓は背中の腰あたりに左右1つずつあるソラマメに似た臓器だ。

 多くの人はこの握りこぶし大の臓器を、血液をろ過して老廃物や有害物質を取り除き、余分な水分と共に体外に排出するオシッコ製造機だと思いがちだ。しかし、実際は多くの臓器と情報を交わして生命維持に貢献している人体の要であることがわかってきた。

「例えば心臓が送り出す血液の4分の1が集中する腎臓は血液を管理する司令塔です。年中休まずに働き、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、リンなどのミネラルや水分の調整をしてきれいな血液を全身に供給しています。さらにEPO(エリスロポエチン)やレニンと呼ばれる情報伝達物質を放出することで赤血球の量や血圧を調整したり、骨づくりに必要なビタミンDを活性化したりしています」

 腎臓は骨と絶えず情報交換することで、寿命や老化に関係する動脈硬化などにも関係することがわかっている。

「血液中のリン濃度が少ない動物ほど寿命が長いことが報告されていますが、それは主成分がリン酸カルシウムである骨が血液中のリン濃度が高くなると『リンは十分足りています』という情報を腎臓に送り、この情報を基に腎臓が血液中のリン濃度を調整しているからです」

 熱中症は、こうした腎臓の働きをすべて狂わせてしまう。急性腎不全を併発して命を左右することにもなりかねない。

「大量の汗をかいて体内の水分量が減ると、血液量も減り、腎臓の血流が減ります。そうなると、腎臓から排出すべき老廃物が排出できなくなり、全身に毒素が回ります」

 汗の成分は水分と電解質。大量の発汗は体液の電解質のバランスを崩すことになる。

「体の中の細胞は、細胞外液で保護されています。この細胞外液に含まれる電解質の割合が変わると細胞は死んでしまいます。腎臓は体重の3分の1を占める細胞外液の成分、とくに電解質のバランスを調整しています。このバランスが崩れると、けいれん、むくみ、心不全、意識障害などを起こします」

■炎天下で活動する人は横紋筋融解症のリスクも

 熱中症で腎臓の機能が急激に低下すれば、状況によっては緊急に透析療法を行わなければならないこともある。

 炎天下で体を動かさなければならない人の腎臓はさらなる危険にさらされる。熱で筋肉の細胞が融解・壊死して筋肉の細胞内の物質(ミオグロビン)が血液に流れる横紋筋融解症になる恐れがあるからだ。

「ミオグロビンが大量に血液中に流れ出ると、尿から必要な成分を再吸収する尿細管を閉塞させて急性腎不全を起こすことがあります。呼吸筋が損傷して呼吸が困難になったり、血液循環量の減少によるショックが出たり、高カリウム血症による急な心肺停止などが起こる可能性もあります」

 こうしたリスクは年齢とともに高まることを忘れてはいけない。

「腎臓は我慢強い臓器で機能が低下してもなかなか自覚症状は出てきません。健康な人の場合、腎機能は20~30歳ごろがピークで年齢とともに少しずつ低下していきます。自覚症状は正常時の30%以下しか働かない腎不全になるとだるさやむくみ、貧血といった不快症状が起きやすくなるものの、10~20%程度になっても症状を自覚しない人もいます」

 それだけ中高年の腎臓は弱っていて暑さによる被害を受けやすいということだ。しかも、40歳を過ぎると失われた腎機能は元に戻ることはない。

 熱中症による腎臓へのダメージを避けるには、暑い場所を避けることだが、高齢者や糖尿病患者のように神経が弱っている人は暑さを感じない場合もある。自身の腎臓の状態を知るにはどうしたらいいのか?

「定期的に病院で血清クレアチニン値やGFR(糸球体ろ過量)を調べるのは当然ですが、急激な腎機能低下を警戒するには尿の色や量に注意するといいでしょう。尿量が減り、濃い茶色のような色になった後に水分補給してもその色が変わらなかったら腎臓の機能に問題が起きている可能性があります。とにかくこれからの時期はこまめに水分補給を行うことを心がけてください」

 あなたは大丈夫?

関連記事