Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

厚労省が保険適用検討へ「乳がん予防切除」普及への課題

乳がん発症前に予防切除をしたアンジェリーナ・ジョリー(C)日刊ゲンダイ

 問題は、予防切除が医学的な意味だけでなく、家族への影響も計り知れないことです。若い方だと、妊娠や出産との兼ね合いもあり、変異があるからといって、すぐに手術には踏み切れないでしょう。それだけに、まず遺伝子検査は、カウンセラーがいて、支援体制が整った医療機関で受けることが一番です。

 その上で変異が見つかったときにどうするか。例えば、乳がんを発症しておらず、将来の出産を希望するなら、乳房については乳房MRIでチェックし、卵巣については経膣超音波検査と腫瘍マーカーのCA125の測定です。

 すでに乳がんを発症していれば、反対側の予防切除が検討されます。同時に卵巣の精密検査が重要で、出産を希望しなければ卵巣の予防切除が勧められますが、希望する場合はケース・バイ・ケースになります。

 救命という点で予防切除は重要な選択肢の一つですが、家族の形を考えると、杓子定規に適用できません。慎重な対応が必要です。

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中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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