染色体異常を血液検査のみで判定「新型出生前診断」の課題

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 ダウン症をはじめとした染色体異常を血液検査のみで判定できる「新型出生前診断」(Non Invasive Prenatal Test=以下、NIPT)に対し、ついに国が乗り出すことになった。今年6月、厚生労働省が検討会を作って検査の在り方を議論する方針を示した。この背景には、NIPTについて日本産婦人科学会の指針はあるものの強制力がないこと、そして認定外の無許可施設が増加していることがあるようだ。

 NIPTはリスクの伴う羊水検査に代わり、体を傷つけにくい血液検査のみで行う検査方法として昨今、増加傾向にある。建て前上は学会が許可した施設で、カウンセリングを受けた上でしか検査を受けることができないことになっているが、無許可の施設の中には、カウンセリングなしで簡単に受けることができるところもある。

 ただ、学会が認めたNIPTで調べることができるのは、23組の染色体疾患のうち、生まれてくる確率が高いとされるダウン症、パドー症、エドワーズ症の3つのみ。残る20組の染色体疾患は調べることができない。

 さらに、年齢制限も設けられており、35歳以上の妊婦しか受けることができない。

 そのため、23組すべての染色体疾患を調べることができ、かつ35歳未満でも受けることができる無許可施設に患者が流れているのが現状だ。

■認可施設ではすべての染色体疾患を調べられない

 筆者はNIPTを受けたり受けようとしている複数の妊婦に取材した。最近、話を聞いた20代会社員のA子さんの、こんな話が印象深かった。

「確かに自身の年齢が下がれば、染色体疾患を持った子どもを生む確率が下がるかもしれませんが、しょせんは確率論でしかありません。20代でも染色体異常のある子どもを生んでいる方もいます。いろいろ配慮した結果だとは思いますが、個人的には年齢制限を設けている理由が分かりませんし、3つの染色体しか調べられないと制限をかける意味も不明です。相対的な症例は少ないかもしれませんが、ダウン症以外などの染色体疾患を持った子どもも生まれています。私は障がいを持つ子どもの出産を否定するわけではありませんが、自分が実際に育てていく自信は今は持てません。だからこそ、出生前診断を受けることにしたのです」

 彼女が受けたクリニックでは、金額は許可施設と変わらない約20万円。許可施設と違い、カウンセラーはおらず、ドクターからNIPTの説明を受けただけだったという。その後、採決した血液が検査会社に送られ、2週間ほどでA子さんのもとに結果が届いた。結果は陰性だったという。

 しかし、中には陽性になる妊婦もいる。そのときに妊婦が直面するのが、命の選別だ。お腹の子どもの染色体疾患が判明した場合、9割の妊婦が中絶を選択するといわれている。それは障がいを持って生まれてくるであろう子どもを親が育てていく環境や、知識を伝える環境が不足しているからではないだろうか。十分なカウンセリングが不足しているため、「大変だ!」というイメージがばかりが先行し、どうしても、中絶を選択してしまうのが今の日本の現状だ。医者側も陽性が出た場合は、暗に妊婦の中絶を前提にして話を進めている現状もあるようだ。

 国には、NIPTの在り方だけではなく、命の選別に対する考え方に対しても、検討していくことを望みたい。まずは十分なカウンセリングを妊婦が受けられる態勢を整えることが急務ではないか。

(取材・文/ジャーナリスト 中西美穂)

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