進化する糖尿病治療法

肥満で白色脂肪細胞が膨張… 重要なホルモン分泌にも影響

急激なダイエットもNG
急激なダイエットもNG

 糖尿病に限らず、すべての生活習慣病対策において、体重は非常に重要です。それも「○キロで肥満だから悪い」などではなく、同じ太っているのでも、「太ったり痩せたりを繰り返して、やや肥満」と「ずっと小太り」では、体に与えるダメージが違います。

 私たちの体の中には、白色脂肪細胞という、脂肪を蓄積する貯蔵庫のようなものがあります。白色脂肪細胞は、もともとは平均直径約0.08ミリ程度の丸い形の細胞。ところが白色脂肪細胞に脂肪が過剰に蓄積されると、白色脂肪細胞の直径は0.10~0.13ミリまで膨れ上がり、体積も3倍くらいまで大きくなります。これが、肥満の初期の段階。さらに肥満が進むと、白色脂肪細胞の数が増えていきます。

■一度太ると血管は傷つく

 つまり、「肥満=白色脂肪細胞に脂肪が過剰に蓄積された状態」なのですが、問題は、白色脂肪細胞は生きていく上で重要なさまざまなホルモンを分泌する役割も担っているということです。

 どういうホルモンかというと、血液中からブドウ糖を取り込んだり傷ついた血管を修復する「アディポネクチン」、血液中からのブドウ糖の取り込みを抑制する「TNF―α」「レジスチン」、血管収縮作用のある「アンジオテンシン」の材料「アンジオテンシノーゲン」、食欲抑制など多くの作用を持つ「レプチン」、止血効果を高める「PAI―1」など。

 白色脂肪細胞に脂肪が過剰に蓄積されて肥満になると、これらのホルモンの分泌量が変化。あるホルモンは分泌量が増え、あるホルモンは分泌量が減ります。

 すると体に異常が生じて、病気のリスクを上げることが分かっているのです。

 特に、内臓に脂肪がたまる内臓脂肪型肥満は、皮下組織に脂肪が蓄積する皮下脂肪型肥満よりもホルモン分泌量変動への影響が大きい。内臓周辺の白色脂肪細胞は、皮下脂肪周辺のそれらに比べて、ホルモンの分泌が活発だからです。

 たとえば、肥満でTNF―αとレジスチンが増加し、血液中からブドウ糖が取り込まれにくくなり、血液中のブドウ糖濃度が高くなる(高血糖)。ブドウ糖が血管の内側の壁を傷つけ、血管が傷つく。また、アンジオテンシノーゲンも、肥満で分泌量が増えるホルモン。血管収縮が促進し、血圧が上がり、やはり血管が傷つくのです。

 さらに、傷ついた血管を修復するアディポネクチンが減少し、止血効果を高めるPAI―1は増加するので、動脈硬化が進行する上に、血栓もできやすくなります。肥満が動脈硬化を進行させると言われるゆえんです。 つまり、一度太れば、血管が傷つくなどのダメージが生じる。度重なる体重の変動がある人は、その都度、ホルモンの分泌量に変動が出て、血管など体にダメージが加わり、ストレスとなる。

「小太りの人が長生きする」とよく言われます。本来、「太る」は健康にとってのネガティブ要素ですが、常時太っている、しかも大した肥満ではない小太りなら、ホルモンの分泌量の変動があまりなく、ダメージやストレスもかけ続けない。それが、長生きにつながるのでしょう。

 白色脂肪細胞からのホルモンの分泌を正常に保つなら、肥満は解消しなければならない。しかし、いったん痩せた後また太らないようにしなければならない。「急激なダイエットは駄目」と言われるのは、「リバウンドしてダイエット以前より太ってしまう」ということもありますが、ホルモンの分泌量の変動を何度も起こさせないように、という理由もあります。

 痩せ方としては、体重の5%を半年ほどかけてゆっくりと落とす。急激に痩せた人は、必ずといっていいほどまた太ります。数カ月前、あるお笑い芸人さんが5カ月間で47キロ以上のダイエットに成功したことが報じられましたが、医師としては全く勧められません。

 過去に肥満経験がある人は、何度かこの欄で取り上げた「負の遺産」も意識する必要があります。ダイエットによって適正体重に達し、維持できていても、肥満時代に受けた血管のダメージなどは帳消しにできません。ずっと適正体重で来た人よりも、健康に留意しなくてはならないのです。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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