遺伝子を再プログラムされたバクテリア(細菌)を使い、がん細胞を破壊できることがマウス実験で証明された――。医学誌「ネイチャー・メディシン」に発表され、大きな反響を呼んでいます。発表したのはコロンビア大学の研究チームです。
人の免疫細胞は自力でがん細胞を破壊できますが、問題はがん細胞がCD47という遺伝子からつくられるタンパク質を利用して、免疫細胞の目を逃れていること。
CD47は通常健康な間質細胞などにくっついて「私を食べないで」サインを出しているため、マクロファージと呼ばれる死んだ細胞などを食べる免疫細胞に攻撃されずに済みます。ところが同じようにがん細胞は突然変異によってCD47をつくってカムフラージュし、免疫細胞の目を逃れて成長していきます。
近年、研究者たちは抗体によってこのがん細胞上の「私を食べないでサイン」を隠し、免疫細胞に攻撃させる方法を開発。臨床実験も始まっていますが、抗体は分子が大きいために大きな腫瘍の中に入り込めませんでした。
そこで、抗体の代わりにバクテリアを使って同じことができないかというのが今回の研究です。
500万個の非病原性バクテリアに、抗体よりもっと小さなナノボディー(単鎖抗体)を生成する遺伝子を注入し、マウスの腫瘍に注射。バクテリアは腫瘍内で大量のナノボディーを吐き出し、CD47によるがん細胞の「私を食べないでサイン」のカムフラージュを剥がすことに成功しました。Tリンパ球を活性化させて腫瘍を小さくし、最終的には完全に除去できたのです。この快挙に「まさにバクテリア軍団によるトロージャンの馬のようだ」と驚きの声が上がっています。
マウスでの成功がそのまま人間に応用できるかどうかはまだまだこれから。しかし、がん治療の未来にまた新たな光が差したことは間違いないでしょう。
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