梅雨晴れは要注意? 夏に多い虫垂炎を甘く見てはいけない

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 夏は冬に比べて虫垂炎が多いという。昨年の日本臨床外科学会誌に岩手県立病院消化器外科と同小児外科が合同で「急性虫垂炎の季節性変動」という論文を発表。2014年末までに同院で急性虫垂炎の手術をした450例を調べたところ、気温の高い時季が多かったという。同様の報告がフィンランド、カナダ、米国などでもなされているがなぜか? 弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。

 盲腸は、小腸と大腸のつなぎ目あたりにある袋状の小器官。端が行き止まるという意味の「盲端」という言葉が転じて盲腸と呼ばれるようになった。虫垂は虫垂突起ともいわれ、盲腸から突出した細長い管腔で、そこに便のもとなどがたまると細菌が増殖する。それで生じた化膿性炎症が虫垂炎だ。

「最初は上腹部が痛み、吐き気の症状が表れます。やがて、その痛みが右下腹部に移動します。しかし、こうした典型例は誰にでも起こるわけではありません。人によっては虫垂の位置が違っていたり、癒着などがあると痛みが左下腹部や背中に移動することも珍しくありません」

 虫垂炎と間違いやすい病気としては大腸憩室炎や尿路結石、腸炎などがある。本当に虫垂炎かは血液検査の白血球数やCRP値、腹部CTなどにより総合的に判断される。

 食中毒や腸閉塞との違いは、下痢や便秘などの便通異常が見られないことが挙げられる。

 昔は、虫垂炎は「スイカやブドウの種を食べるとなりやすい」といわれたが、これはウソ。あくまでも、細菌感染などの化膿性炎症が原因であるため、粗悪な食品を食べたり、免疫力が低下するようなストレスの多い生活を続けると虫垂炎になりやすいといわれる。

 虫垂炎が疑われるときはお腹を温めてはいけない。細菌感染が進み症状が進行しかねない。虫垂炎を疑ったら食事を取らずに一刻も早く病院へ行くことだ。

 中には多忙を理由に「虫垂くらい慌てる必要はない」と思う人もいるかもしれないが間違いだ。

「急性虫垂炎は3つに大別できます。1つ目は抗生剤での治療が可能なタイプ、2つ目は膿が虫垂の袋の中に充満した蜂窩織炎性タイプ、3つ目は虫垂組織に穴が開いて手術が必要なタイプです。最後のタイプは、発見が遅れると腹膜炎や敗血症といった重篤な合併症を起こして亡くなることもあります」

 実際、2年前のICD基本分類による年次死亡数データによると、急性虫垂炎の死亡者数は77人、詳細不明の虫垂炎を含め104人で、65~99歳が多かった。

 3年前に虫垂炎を発症したタレントのおりも政夫さんは当初は甘く見ていたそうだが、癒着した小腸と大腸もろとも切除する、4時間超えの大手術となったという。

 医師からは「あと1日手術が遅れていたら死んでいた」と言われたそうだ。

 それにしても、なぜ気温が高い時季に急性虫垂炎は発症しやすいのか?

「夏場は細菌が繁殖しやすい上、虫垂の壁が炎症で腫れて管腔を閉塞させたり狭めたりするからではないか、と考えられています。しかも、論文によっては気温が高いことに加え、気圧が低い方が盲腸が多いという指摘もあります。これに懐疑的な意見もあり、詳細は不明ですが、仮に本当なら交感神経が関係していると考えられています」

 ヒトの免疫細胞には、体内に侵入した細菌を食べる顆粒球とウイルスや細菌に感染した細胞を攻撃するリンパ球がある。低気圧で交感神経が活発になると顆粒球が活発に働き大量の酸化酵素が発生する。その結果、消化器官内の細胞を傷つけるなどして虫垂炎になるとの考え方もあるという。

「経験的に、むしろ気圧が急に高くなる梅雨の晴れ間に虫垂炎が増えるという医療関係者がいますが、それは顆粒球が活発になって虫垂炎を発症するまでにタイムラグがあるからでしょう」

■切除するかしないかは慎重に判断すべし

 気になるのは虫垂炎になったときに「薬で散らす」か「手術で切除するか」だ。昔は盲腸は無用の長物とされ、急性虫垂炎と分かれば手術で切除するのが一般的だった。しかし、今は必ずしもそうではなく、ケース・バイ・ケースだという。

「抗菌薬治療による初期治療を行った急性虫垂炎患者を追跡したところ、5年後でも約60%に再発が見られなかったことが世界的に権威ある英国内科医雑誌に掲載されるなど、手術に慎重な考えも出てきています。虫垂には腸内細菌を保持するような作用があり、腸の健康を担っているとの見方が出てきたからです」

 実際、虫垂を切除することで胃腸の免疫力が低下して、「胃がん」「大腸がん」「食道がん」が増えるとの欧米の報告が複数出ているという。

「大腸には100兆個ともいわれる腸内細菌が生息していながら感染症を引き起こさないのは、IgAという抗体が虫垂の中にある免疫細胞で作られているからで、虫垂を切除すると腸内細菌叢のバランスを崩し、免疫力が低下して、がんになりやすいという見方もあるのです」

 虫垂を手術する際は、専門医によく相談した方がよさそうだ。

関連記事