そうした新たな問題が増えてきたこともあって、自身ががんになった経験がある循環器医らがグループをつくり、がんと心臓疾患についての研究や治療法を検討しています。しかし、まだ十分とはいえない段階で、がんと心臓疾患の両方についての深い知識と豊富な経験がある医師は極めて少ないのが現状です。もともと、循環器医はがんに対する造詣は深くありませんし、がん専門医は循環器系は専門科に任せればいいという傾向があっただけに人材が不足していて、エアポケットのような状態になっているのです。
今後、日本は高齢化がますます進みますから、がんと心臓疾患をかぶって抱える患者が増えるのは間違いありません。ですから、これからはがんと心臓疾患の両方に詳しい医師の育成が重要になってきます。同時にがん専門科と循環器科の連携体制をこれまで以上に整備すべきです。
いまはエコーやCTなどの検査機器が急速に進歩しているので、検査結果を電子カルテで各医療機関が共有し、AI診断を活用するなどして、診断の段階からがん患者の心臓疾患リスクを3~5段階くらいで評価することも可能でしょう。そうした体制が整ってくれば、「このがん患者は心臓のリスクが高いから循環器科が早めに介入した方がいい」といった客観的な評価ができるようになり、循環器医がより積極的に関われる状況が増えるはずです。それぞれの専門医が早い段階で介入することで、よりよい治療につながります。
いまはまだ両者の連携がそこまでとれてはいないので、ボーダーライン上の患者がいても「さて、どうしようか……」と医師が逡巡するケースも少なくありません。
がんと心臓はこれからの日本の医療にとって大きな課題なのです。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」