Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

開始は9月 英国が子宮頸がんワクチンを男女接種にする意味

(川村りか公式ブログから)
(川村りか公式ブログから)

 HPVをご存じでしょうか。ヒトパピローマウイルスのことで、子宮頚がんなどの原因となるウイルスです。

 そう言われて、「女性の話か」と思われた男性の皆さん、その意識はすぐ修正してください。「など」と書いたように、男性にも大いに関係があります。

 HPVの感染は、ほぼ100%が性交渉。それが女性器に感染すると、子宮頚がんのリスクが高まります。感染ルートは性交渉ですから、当然、男性も感染します。

 オーラルセックスによってHPVがのどに感染すると、中咽頭がんのリスクがアップ。男女とも6割がHPV感染が原因とみられます。肛門への感染は肛門がんの危険性を高め、陰茎に感染すると尖圭コンジローマになりやすくなります。

 男性も、無関係でないことがお分かりいただけたでしょう。そんな状況から、英国は9月から女子に加えて男子もHPVワクチン接種の対象にすると報じられました。2008年から12歳と13歳の女子を対象にしていたのを、同年齢の男子も含めるということです。

 HPVには複数のタイプがあり、ワクチンは2つ。2種のウイルスをカバーするサーバリックスと4種を対象とするガーダシルで、ガーダシルなら尖圭コンジローマの予防にもなります。早期にワクチンを導入した国では、子宮頚がんが最大9割減少したと報告されていますから、予防効果はとても高い。

 男性へのHPVワクチン接種を勧める国はほかにもあります。その代表がオーストラリアで、女性への接種から遅れること6年後の12年に男性への接種をスタート。16年の調査によると、14、15歳の接種率は、女性が78%、男性が70%です。

 ひるがえって日本の接種率は、1%程度。13年4月から予防接種法に基づいて無料接種が可能になりましたが、副反応問題が浮上し、今にいたっています。

 その後の調査で、接種後のさまざまな症状は、ワクチンの影響ではないということで意見がまとまりつつあります。そうなると今後は、接種再開した学年から子宮頚がんが減り、それまでの学年は子宮頚がんの悲劇が続くという可能性も指摘されるなど、ちょっと心配な状況です。

 性交渉の低年齢化で、子宮頚がんの発症のピークは30代。昨年4月、子宮頚がんであることを告白したタレントの川村りかさんは現在30代。子宮全摘手術のほか、抗がん剤と放射線治療を受けたそうです。

 ブログにはお子さんと元気に生活されている様子がつづられていますが、今や20代での発症も珍しくありません。若い方の悲劇は、家族の形に直結。米国では、2万3000人の女性と1万6000人の男性が毎年、HPV関連のがんと診断されていますから、英国の対応は英断です。

 日本では、機能性食品や器具が話題になるようにあちこちで“健康”が取り上げられますが、ほとんど美容やダイエットといったうわべの健康。本当の意味で健康を考えるなら、欧米の対応が理解できるはずです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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