がんと向き合い生きていく

生後2カ月でお腹にがんができた女の子に思った「命の価値」

佐々木常雄院長(C)日刊ゲンダイ

 Tちゃんの母親は、そばで着替えやタオルなどを整えていました。Tちゃんは生まれて2カ月でお腹にがんができたそうです。以来、10カ月以上も抗がん剤治療が繰り返されてきましたが、がんは悪化し、肝臓、肺臓、そして脳にも転移がきました。ほとんど意識のない状態になって、数カ月が経っているといいます。もう積極的な治療法はなくなり、死が近いことが予想され、両親はこれまでの専門病院から、自宅が近い診療所にお世話になることを決められたようでした。

 Tちゃんを置いて帰る医師と看護師も、そしてこれから担当する医師と看護師も、けいれんが起きた時の処置をはじめ、これから起こりうる可能性のある、あらゆることを話しておきたい、聞いておきたいと、双方とも一生懸命です。

 スタッフの誰かが言いました。

「Tちゃん、いらっしゃい。よく来てくれました。仲良くしましょ。Tちゃん、1歳おめでとう」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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