人間の染色体は46本。両親から23本ずつ受け継ぎます。それぞれに番号が付けられており、1番染色体、2番染色体という呼び方をします。ただし、性染色体だけは例外的に、X染色体、Y染色体と呼んでいます。性染色体を除けば、男女問わず、同じ染色体を2本ずつ持っているのです。
同じ染色体には、同じ遺伝子がのっています。ですから各自、同じ遺伝子を2個ずつ持っていることになります。そのため、たまたま片方の遺伝子が壊れていたり、働きが悪かったりしても、大病には至らず、大抵は「体質」や「個性」といわれる範囲にとどまっていられるのです。
性染色体でも、女性(XX型)の場合は同じです。X染色体には、男女共通で生存に欠かせない遺伝子も多数のっています。例えば、血液凝固因子の遺伝子があります。それが壊れていると、血が固まりにくくなってしまいます。しかし、女性の場合、片方が壊れていても、もう片方が正常なら、健康上の問題は生じません。
ところが、男性(XY型)はX染色体を1本しか持っていません。つまり、大切な遺伝子が1個しかないのです。もしそれが壊れたら、深刻な事態に陥るのは必定。この場合は出血が止まりにくい「血友病」になります。実は女性でも、まれに2個とも壊れる場合があります。よく「女性は血友病にならない」といわれますが、そうではありません。日本全体で見ると、男性患者が約5000人に対し、女性患者は約50人います。
というわけで、女性はX染色体を2本持っているから病気になりにくく、男性は1本しかないから病気にかかりやすいのです。
ところが、残念ながら、話はそれほど単純ではありません。実は女性では、X染色体の「不活化」という現象が起こっているからです。女性の2本あるX染色体のうち、実際に働いているのは1本だけで、もう1本は休眠状態になっています。2本ともフル稼働させてしまうと、X染色体上の遺伝子の働きが男性の2倍になってしまうため、かえって具合が悪いからだと考えられています。女性のほうで、男性に合わせてくれているわけです。
不活化された染色体は丸められて、細胞核の隅のほうに追いやられています。
永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。