人生100年時代の健康法

男性より丈夫で長持ち 女性の肉体は「ハイブリッド構造」

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 女性の細胞では、2本あるX染色体のうち、1本が完全に休眠状態になっています。つまり、見かけ上はXX型なのですが、実際に使われているX染色体は1本だけなので、事実上のX型なのです。これが「X染色体の不活化」と呼ばれる、女性だけに見られる現象です。

 でも、ちょっと待ってください。男性はXY型ですが、年齢とともにY染色体が消失してX型に近づいていくという話でした。そして、Yの消失に伴って、がんなど重大な病気のリスクが上がってしまうのです。だとしたら、女性は実質的にX型なのですから男性よりも病気のリスクが高く、寿命が短いはずではありませんか。

 確かに、細胞レベルで見ればそういうことが言えそうです。

 しかし、X染色体には「父系X」と「母系X」があります。それぞれ同じ遺伝子をのせていますが、その片方が壊れていたり、働きが悪かったりはよくあることです。ですから、どちらが休眠するかで健康リスクが変わってくるはずです。

 ところが、女性の体には、こうした問題を回避する、巧妙な仕掛けが用意されているのです。

 X染色体の不活化は、受精から2~3日後、細胞数にしてまだ100個程度の「胚」と呼ばれる段階で起こります。

 この時、細胞ごとにランダムに、どちらのXを眠らせるかが決まります。それ以降はX染色体の選択は行われません。父系Xが休眠した細胞を起源に持つ細胞は、すべて父系Xが眠ったままですし、逆も同様です。

 ですから、平均すると女性の体をつくる数十兆個の細胞の半分では母系Xが使われており、残り半分では父系Xが活動しているわけです。そして体全体として見れば、XY型の男性よりもバランスが取れているのです。つまり女性の体はハイブリッド構造なのです。単純構造の男性より丈夫で長持ちというわけです。

 ただし、胚の段階でサイコロを振ってしまうため、どちらかに極端に偏った目が出ることもあります。父系Xの細胞が優勢な人は父親の健康リスクを受け継いでしまいがちですし、母系Xが優勢なら母親と同じ病気にかかりやすくなっているのです。また、そうしたアンバランスから来るさまざまな不調も、女性特有の健康問題です。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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