病気を近づけない体のメンテナンス

「皮膚=肌」手入れの基本は石鹸を泡立て手で軽くこする

泡立てて軽くなでる程度で良い
泡立てて軽くなでる程度で良い

 病気予防には、日頃からの体の手入れが大切になる。日常的に何げなくやっている行動や習慣が、体にいいことなのか、悪いことなのか、知らずに過ごしていることが多い。しかし、自分で意識して正しくケアしていれば防げる症状や病気もある。そこで「体の正しい手入れ」を各領域の専門家に解説してもらう。第1弾は「皮膚(肌)」だ。

 人の全身を覆っている皮膚は、成人で面積が約1・6平方メートル(およそ畳1枚分)あり、人体で最大の臓器とされている。その働きは、体内の水分の喪失を防ぐ、体温の調節、外からの刺激の感知、微生物や化学物質の刺激から守るなどがある。また、露出している臓器であることから、皮膚の健康や老化は見た目(美容)にも関係する。

 誰もが日常的にやっている最低限の肌の手入れは、清潔を保つための「洗顔」や「入浴」が基本になるだろう。しかし、それも皮膚の仕組みを正しく理解していないと、間違った洗い方を習慣にしてしまっている場合がある。つまり“洗い過ぎ”により、皮膚のバリアー機能を破壊してしまうのだ。山手皮フ科クリニック(東京都新宿区)の豊福一朋院長が言う。

「皮膚の外側の表皮は4層からなり、一番下の基底層で新しい細胞がつくられ、有棘層↓顆粒層↓角質層の順で皮膚表面に押し上げられ、一番外側の角質層がバリアー機能の役割を果たしています。さらに、手のひらや足の裏を除いた全身の皮膚には毛に付属する皮脂腺があり、皮脂を分泌しています。皮脂は汗と混ざり合って皮脂膜をつくり、皮膚表面を保護し、水分の蒸発を防いで皮膚や髪に潤いを与えているのです」

■ナイロンタオルでゴシゴシは厳禁

 しかし、皮脂は多過ぎると汚れがたまってニキビや吹き出物の原因になり、少な過ぎると乾燥肌になる。皮脂の分泌量は年齢によって異なり、年を取るほど分泌が減る。高齢になるほど肌がカサカサして乾燥肌になりやすいのはそのためだ。また、皮脂膜は弱酸性なので皮膚に付着するウイルスや菌を死滅させる働きがある。しかも、その皮脂や汗をエサとする皮膚常在菌(表皮ブドウ球菌など)が安定して生息することで病原性を持つ常在菌の繁殖を防ぐという、何重ものバリアーが働いているのだ。

「肌に悪いのは入浴時にナイロンタオルなどでゴシゴシ洗うこと。サウナのアカスリや乾布摩擦などもよくありません。ゴシゴシこすり表皮の角質層を傷つけて減らすと、皮脂が減少して皮膚表面の状況が悪化し、皮膚常在菌のバランスが崩れる悪循環を起こします。体を洗う時は、足の指の間や股間、脇の下は念入りに洗うとしても、他の部分は石鹸やボディーシャンプーを泡立てて手で軽くなでる程度で、汗などの汚れは十分落ちるとされています」

 洗い過ぎて皮膚のバリアー機能が壊れると、刺激性皮膚炎や悪玉の常在菌(黄色ブドウ球菌など)の増殖によって、かゆみや炎症、痛みなどを引き起こす原因になる。

 アトピー性皮膚炎の場合も、バリアー機能が壊れ、皮膚常在菌のバランスが崩れていることが明らかになっているという。

■低刺激性のボディーシャンプーを

 お風呂好きな人でも、極端な長湯は禁物。「水炊き鍋」と同じで、湯船に漬かっている時間が長いほど皮脂が取れてしまう。夏なら「カラスの行水」で十分という。

 肌がカサカサして乾燥肌の疑いがあれば、使うボディーシャンプーは低刺激性のものを使うようにするのがいい。今は皮脂を減らさないような市販シャンプーも売られている。

 お風呂から出たら、体についた水分や汗は十分にふき取り、エアコンや扇風機などの風に直接当たらないようにする。できれば乾燥しやすい肌の部位は、保湿剤やクリームを塗る習慣を続けた方がいいという。

「洗髪もシャンプーブラシ(頭皮洗浄ブラシ)でゴシゴシ洗うのはよくありません。皮脂の毛穴の詰まりが抜け毛の原因になるという話がありますが、医学的にはほとんど根拠がありません。強く洗うと、逆に皮膚炎を起こす原因になります。洗髪は指の腹を使ってやさしく洗うべきです」

 健康な肌には常在菌の働きが欠かせない。共存していることを意識して、やさしく洗うことを心掛けよう。

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