Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

がん別にズバリ 職場検診と自治体検診の効果的組み合わせ

肺のX線検査だけでなく喀痰検査も
肺のX線検査だけでなく喀痰検査も

 サラリーマンの方は、職場で健康診断を受けているでしょう。そこで併せてがんのチェックも受けているかもしれません。そういう方にも、自治体からがん検診の通知が届きます。では、職場のがん検診と自治体のがん検診をどう組み合わせるか。今回は、そのコツについてお話ししましょう。

 死亡率を下げることが証明されているのは、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頚がんの5つ。この5つの検診が、自治体検診のメニューですが、がん検診を受けた人のうち職場で受けた人の割合は、胃がん、肺がん、大腸がんとも6割前後。

 職場が中心ですが、自治体との組み合わせのポイントの一つが胃がんでしょう。胃がんの検査は、バリウム検査と内視鏡で、3年前からは自治体検診でも内視鏡がメニューに加わっています。内視鏡は怪しい組織があれば、すぐに採取でき、早期発見に効果的ですが、悪性度が高いスキルス性胃がんはバリウム検査の方が見つけやすい。

 それぞれに長短あるのがミソで、そこが職場検診と自治体検診を組み合わせるポイントにもなります。職場検診が内視鏡なら、自治体検診でバリウムを、職場がバリウムなら、自治体検診で内視鏡を。そうやって組み合わせることは、とてもクレバーです。

 もう一つは肺がんで、職場検診はX線がほとんど。痰に含まれる成分を調べる喀痰検査は喫煙者に効果的でも、職場検診では行われないことが一般的です。そこで、喫煙者は、自治体検診で喀痰検査を受けるべきでしょう。

 お酒をよく飲まれる方だと、口腔から食道、肝臓は要注意。胃の内視鏡検査をどちらかで受けるときは、検査の前に「咽頭から食道もよく診てください」とお願いすることです。咽頭がんと喉頭がんは、喫煙のほか飲酒もリスク。自治体検診で喉頭ファイバー検査が対象のときは、受けるとよいでしょう。

 B型とC型の肝炎ウイルスは、肝臓がんとの関係が深い。職場検診で検査を受けたことがなければ、自治体検診で受けるのがオトクです。

 先ほど職場検診でのがん検診受診率が6割と書きましたが、その3つは男女共通のがん。乳がんと子宮頚がんは3割にとどまります。女性は、受診率が低い。女性に非正規社員の割合が高いことと関係していると思われますから、パートナーの女性が職場検診を受けていなければ、ぜひ自治体検診の受診を勧めてください。

 自治体検診のお知らせには、複数の医療機関が掲載されています。岐阜市のがん検診では、「要精密検査」だった判定を「異常なし」として通知する誤判定が明らかになっただけに、掲載リストの病院の良しあしが気になるかもしれません。自治体の管理体制のズサンさも心配でしょう。それでも自治体検診はやっぱり受けるのがベター。どこがいいかを気にするより、経年的な比較が大事なので、同じ施設で継続的に受診することが大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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