友人と外で会話をしていると、相手の声が聞こえにくくて、「えっ、何?」と聞き返すことがあるでしょう。それが周りの音などのせいなら問題ないでしょうが、騒音環境にたえず身を置いていると、単なる聞こえにくさではなく、難聴になるから厄介です。
そういう難聴は、騒音性難聴と呼ばれますが、私は東京のビジネスマンを中心に診察していますから、21世紀に入ってから騒音性難聴の患者さんを診察したことはありません。もちろん、工事現場、鉄道や幹線道路の沿線などはリスクになりえますが、今後、無視できないのがヘッドホンの影響です。
街中には、ヘッドホンをして音楽を聴いたり、動画を楽しんだりしている人をよく目にします。若い人だけでなく、中高年も珍しくありません。ヘッドホンをする人にとって、その音がどんな音量であれ、快適な音。その音量が強く、何日も繰り返すと、音響外傷によって、気づかぬうちに難聴が進行。WHO(世界保健機関)は、世界で10億人以上がヘッドホン難聴になると警告しているのです。
もちろん、難聴を調べるのは、聴力検査。健康診断では、低音の1000ヘルツと高音の4000ヘルツのそれぞれで、いろいろな強さ(デシベル)の音を聞き取れるかどうかを調べます。人の耳が聞き取れるのは、20~2万ヘルツと広範囲ですが、会話の中心領域は250~2000ヘルツ。ヘッドホン難聴は、4000ヘルツの聴力が低下するため発見が遅れやすいのです。
4000ヘルツがどんな音かというと、日常生活では体温計のブザーのような高くて小さな電子音が典型でしょう。周りの会話は聞こえているのに、体温計の計測終了の合図が分からない。そんなことがあれば、ヘッドホン難聴がひたひたと進行している証拠。なおかつ、健康診断で高音に異常が見られたら、要注意です。
放置していると、会話の中心の1000ヘルツまで聴力が低下。それで「あれ、おかしいな」と思っても、そこまで症状が進むと、治りません。そこが、ヘッドホン難聴の怖さです。
加齢による老人性難聴も、聴力の低下は8000ヘルツから。一般に突然の聴力低下や、耳鳴り、めまいなどがないと、耳鼻科でもより精密な検査を行うことはまずありません。しかし、1000ヘルツと4000ヘルツの聞こえる音の強さに20~30デシベルの開きがあるときは、念のため精密検査を受けるのが無難です。
(梅田悦生・赤坂山王クリニック院長)
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