がんと向き合い生きていく

80歳の母親は助かる可能性があった胃がんの手術を受けず…

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 母と私は大ゲンカになりました。私は手術して欲しかったのです。生きていて欲しかったのです。それでも、母は頑として「手術はしない」と言い張りました。

 担当医は「今なら助かる可能性がある」と言っておきながら、どうしてもっと強く、強く手術を勧めてくれなかったのでしょうか? あの「今なら助かる」の言葉が私には忘れられません。「あなたの命だからあなたが決めてください」ではなくて、「手術しましょう。今なら助かります。高齢でリスクはありますが、出来るだけ頑張ります」と、どうしてそう言って下さらなかったのでしょうか?

 母が自分で決めたことで、今さらこうなってしまっても仕方ありません。でも、ケンカになったあの時、母は「私の命なんだ。担当医もあなたの命と言った。だから私が決める」と言っていました。

 私は「母の命は母ひとりの命ではない。一緒に暮らしてきた家族の命でもあるし、私の命でもある」と言ったのです。でもその後、数日は口を利かなくなりました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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